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今日の筆洗

2019年05月21日 | Weblog

作詞家の阿久悠さんが「誰が歌謡曲を殺したか」というエッセーを書いている。考えてみれば、その年を代表する曲を思い出せぬ時代になって久しい。全盛期を知る阿久さんには歌謡曲は「殺された」ように映っていたのか▼「聴き歌」がなくなったことを阿久さんは歌謡曲を殺した犯人の一人と考えていたようだ。「聴き歌」とは自分で歌って楽しむ「歌い歌」とは違い、もっぱら歌を聴き、歌い手の技、芸を楽しむ歌のことだそうだ。カラオケの普及もあって歌いやすい曲ばかりを求められる時代となり、プロ歌手の圧倒的表現力やプロ作家の革新的創作力は軽んじられ、結果、歌謡曲は衰えていったという▼阿久さんの説に「聴き歌」の歌手が思い浮かぶ。紫綬褒章に選ばれた石川さゆりさんである。卓越した歌唱力、表現力、訴求力。今では数少なくなった「聴き歌」の歌い手の功績が評価された▼代表曲「天城越え」(一九八六年)。作詞の吉岡治さんと作曲の弦哲也さんらが「カラオケで素人が絶対に歌えず、石川さゆりにしか歌えない歌」を目標に制作したという逸話がある▼無論、素人でも歌えなくはないが、<誰かに盗(と)られるくらいなら あなたを殺していいですか>という穏やかならぬ情念の世界は石川さんにしか表現できまい▼歌謡曲の衰退は寂しいが、良き「聴き歌」とその歌い手は忘れ去られることはない。

 
 

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