アヲイ報◆愚痴とか落語とか小説とか。

創作に許しを求める私の瓦斯抜きブログ

読み放談|須藤裕美「異世界購買部!学生食堂はじめました。」を読む

 

人の文章を読むと、癖だとか節回しとかがうつってしまい、自分の文が書けなくなる。昔からそうである。ぼくは人に頼まれて作文を書くのを生業にしているので、これは致命的で、日頃から小説は読まないようにしている。だけど、さすがに長らく読まないと、世間の文章事情(はやりすたり)が分からなくなるので、この春に限り、縁のあった小説をいろいろ読むことにした。その中の一つに、表題の作品があったのであります。

これです。

今までに手に取ったことのない雰囲気の表紙である。出版レーベルが「コスミック文庫α」というところで、検索してそのサイトを閲覧すると、この本は「ライトノベル」に分類されていた。ということはライトノベルなのだろう。ところでぼくは、「ライトノベル」を一冊も持っていない。立ち読みすらしたことがない。つまり、ライトノベル初体験である。昨年、こんなことをやった際、「小説家になろう」で浜の真砂の数ほどの小説群に出会ったが、これらをものしている人たちが「ライトノベル」を標榜していると聞いた。するとつまりあれらは「ライトノベル」に近い物なのだろう。それなら多少触れてみたけど、まあとにかく、ぼくのライトノベル経験値はそのへんどまりであるからして、初体験といって差し支えない。

 

、読んでみた。
ちょうど300ページあって、ぼくにとってはブ厚い本なのだけど、ストーリーが軽快で、文章も難しくなく、だいたい会話で展開するので、すぅぅうぅーっと読み終えることができた。
話の流れを簡単にまとめると…

主人公の女の子は、小川町なる田舎で、両親から受け継いだ小商店を切り盛りしている。気を失って目を覚ますと、欧風な世界の学園にいる。やれどうしようと困っていると、学園長が学園の購買部に働き口を見つけてくれる。だがそこは汚くて客は寄りつかず、だらしない男が部長をやっている。主人公の女の子は、元の世界に戻る方法を模索しながら、彼女らしいアイデアと小商店経営のノウハウで購買部を復興させる。さらには学食経営にも乗り出し……。

ネタバレになっちゃいけないからここらで止めておく。

 

ファーストインプレッションはこうだ。

あーっ! 知ってる!
異世界転生っていうんでしょ!

巷によく聞く異世界転生。
ぼくは、ついにその本物を読んだんだ!
なにかこう、「ジブン、いまを生きてるなあ……」と思った。

もう一つ、これまた巷によく聞く筆法というか、主人公がすでに万能である。経営のノウハウや料理のテクニックを兼ね備えている。世界をぶっ壊すほどのステータスはないものの、すでにいろいろできる子で、周りの人たちがそれに純粋に驚き、敬意を表している。

総じて、
異世界で万能人が快刀乱麻。
そういう話です。問題を次々に解決していく過程が心地良い。

 

いではしばしば「ターゲッティング」の重要性が説かれる。作家と出版社は一冊の本を世に出すにあたり、一生懸命マーケティングをし、目論見に見合うように構想し、執筆、出版してるんだろう。

だとすると、こうした本は何歳くらいの人たちが読むようにできてるのだろうか。

ぼくは40過ぎのおっさんで、おそらく想定されたターゲットではなかろうから、気の利いたことを言おうにも躊躇しがちだし、言ったとしても、なんだかちぐはぐなことを言いそうで怖い。それでもまあ、頑張って考えてみよう。

本作は物語の様々な要素を考え合わせると、対象年齢10代前半くらいかな、と思う。といっても、作中、購買部の経営を通じて現実の「社会」や「経済」を彷彿とさせる部分がいくつもあり、決して安直では無い。また、人と人の関わりの中に「相手に期待をこめる」という、昨今忘れられがちな感覚が生きている。やわらかなエンターテインメントの中に、なにかこう確固たる部分が見受けられるのである。こういうのを未来ある若者が読んだら、社会へのときめき、あこがれ、仲間意識、チャレンジスピリット……を抱かせるかもしれないなと思うと、なんだか好感が持てる。

作者がもしそういった願いを織り込んで本作を書き上げたとするなら、これはもう大変な仕事であると思う。いわゆる「ラノベ文法」  異世界転生、なーろっぱ、キャラデザ、万能系主人公、人間関係、大団円、その他もろもろ  そういったものを全て包含しながら、おのれの言葉を託す。主体的書き手として、商業作家として、並大抵のことではない。

まあ実際に作者がそういったメッセージを本作に込めようとしたかどうかは、ぼくの勝手な空想である。けれども、いずれにしても、ぼくは本書を読んで、「これは大変な労作だ」と感じた。とくに物語の最初あたり、主人公の心中の独白をあらわす()の箇所々々に、なにかこう、繊細なものを感じずにいられなかった。しかしそれがまた、主人公の心境に陰影を与える効果になっているようにも思われるのである。 

 

いうわけです。
いろいろ申し上げましたけど、この本、物語を楽しみながら、生活の知恵をたくさんもらえますよ。お菓子作りや清掃方法など、いっぱいノウハウが詰まっています。きっと作者の須藤さんは、「物書く生活知恵袋」ですよ^^ぜひ読んでみてください。


おしまい。

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