花織「花織ね、ちょっと遠いスーパーまで自転車で行ったの。そしたら今まで置いててよかった自転車置き場がもうダメって決まりに変わってて、3時間以上は有料駐輪場ってとこの、柱の陰に隠したの。それでお買い物終わってまさに自転車まであと1秒って時に、警備員の人が自転車を見つけて移動しようとしてたから、花織、もし花織の自転車だから返してって言いたかったんだけど、怒鳴られるんじゃないかって恐くて、言えなくて固まっちゃって、目の前で自転車撤去されるの見てるだけしか出来なかったの」
ヒロム「どっかにまだ置いてあると思うよ」
タケル「探すの手伝おうか」
花織「ありがと。でも花織、帰り道歩くのはつらくて、スーパーに戻って貯金下ろして新しい自転車買っちゃったの。家に帰って自転車壊れたから捨ててきたって嘘ついたんだけど、直せば使えるだろうってパパにすごく怒られて、今日も口利いてくれないの。花織、意気地なしなんだ……」
タケル「嘘はよくないけど自分で買ったのに怒られるってなんかしんどいな」
あすか「警備員に怒られたほうがまだましだったね」
えれぽん「花織ちゃんを見損ないました。一言警備員に言って返してもらえばすむことです。注意されたとしても怒られるとは限らないじゃないですか。私の故国では自転車一台の値段で女の子が売られていくんですよ。お小遣いだって一所懸命貯めたってわけじゃないんでしょう?よほど普段可愛がられてるんですね」
あすか「えれぽん、それ逆なんだ。花織ちゃんのパパ、普段から食べ物以外お金を使うことに異常な嫌悪感を持つ人で、生活必需品しか買ってもらったことないんだ」
花織「自分で服一枚でも買おうものなら、どやされたり何ヶ月も無視されたりするの。で、花織、ちょっと中年男性恐怖症気味なの」
あすか「これ、DVだよ。自覚ある?」
えれぽん「うちでは生活必需品も買えませんでしたし、服も何年も1枚しかありませんでした。でも愛情はありました。不幸は表面からは見えないものですね」
あすかっち宅にて。
ツヨシ「それは花織ちゃんが悪いよ。ぼく、そういうのはがっかりだ。もう花織ちゃんには構わない」
あすか「え?それじゃ私が悪役みたいじゃないか」
ツヨシ「みたい、じゃなくてもともとヒールだろ」
あすか「だから何だよ。花織ちゃん可哀想だろ」
ツヨシ「花織ちゃんを主にしていた自転車が可哀想だよ。そういう形でモノ棄てるのはよくない。あすかっちは女だから女の味方するのかもしれないけど」
あすか「あのねぇ、思春期女子が大人の男にどやされることに対してどれほどの恐怖感を」
ツヨシ「思春期の今逃げるヤツは一生逃げる。モノを大切にしないやつは人も大事にしない。ほんとに服一枚自分で必死で小遣い貯めて買ったんなら、取り返すチャンスがあったのに、その機会をわざわざ諦めるかな?」
あすか「堅物だな。1足す1は2とは限らないんだぞ」
ツヨシ「それにぼくはごめんなさいが言えない子嫌いなんだ」
あすか「私だって小5小6の時、言えなかったから学校で公開処刑されない日はなかったさ。それで一層謝れなくなった」
ツヨシ「今は普通に言ってるじゃん、花織ちゃんは一生謝らないよ。だって嘘ついててずるいもん」
あすか「一人で秘密抱えて悲しんでたよ。だから打ち明けたんだろ」
ツヨシ「打ち明けたところで、彼女が自転車棄てて新しいの買った事実は消えないよ。もう小さい子じゃないからそれぐらいわかりそうなものだろー」
あすか「嘘もずるさも、お前にも私にもあるだろ」
ツヨシ「あるさ。だけど花織ちゃんのついた嘘は許せない。オヤジさんに本当のことを言わないで、オヤジさんのことを悪く言うのは卑怯だ」
あすか「そんな風に思うなら、お前にこんな話するんじゃなかった」
ツヨシ「いや、話してくれてよかったと思うよ。花織ちゃんには今までおごったアイスクリームとショートケーキと大判焼き返してほしい」
あすか「……そういうこすいところがクラスの女子に嫌がられるんだよ」
ツヨシ「あ、いや、これは」
=============================
ちょうど自転車を替えたので、何か自転車ネタで話を作れないかと考え出したのがこれです。時間かかった……
<禁・無断複製転載>