あすか(右)「今日の授業は『古事記』に載ってるサホ姫のお話。人気のお話だったから知ってるかな?」
アンバー(左)「知らなーい」
クリスタル(中央)「知らない」
あすか「イサチノミコトという王(垂仁天皇)が政治してた頃、サホ姫という女性を后にしていた。それはそれは愛し合ってラブラブファイヤーなふたりだったんだけど、サホ姫にはサホ彦というお兄ちゃんがいたんだ。小さい頃からとても仲がいい兄妹だった。サホ彦はサホ姫結婚3年目の時、サホ姫に『おれとイサチノミコトとどっち好き?』って言い出した。んでサホ姫、なんと『お兄ちゃん』と答えてしまった」
双子「え~っ!」
クリスタル(左)「それどーいうこと?兄妹で愛し合ってたの?」
あすか「いやそういう変な仲じゃなくて、同じぐらい好きだったんだけど、兄と妹以上の感情はなかったんだよ。だけどサホ彦にはそういう心の機微分かんなくて自分のほうを大事に思ってると勘違いしたんだ。サホ彦はサホ姫になんと『おれ王様になりたいから、これでイサチノミコトを殺してきてくれ』って短刀を渡したんだ」
クリスタル「ひどい」
あすか(右)「サホ姫は宮で、サホ姫の膝を枕にして寝てるイサチノミコトを見て、チャンスは今しかないと思ったけれど、どうしても大好きな夫を殺すなんて出来ない」
クリスタル(左)「そうよね」
アンバー「膝枕ってところがあざといわねー」
あすか「サホ姫は夫を見て涙ぐんだ。その涙がイサチノミコトのほっぺに落ちて、かれは目を覚ました。愛する妻が泣いている。どうしたのかと聞くとサホ姫はもう耐えられなくなって兄に言われたことを打ち明けた」
クリスタル(右)「そりゃ、そうよね~、ひどいお兄ちゃんだわ」
アンバー(左)「どうしてそんなお兄ちゃんのほうが好きだったのか分かんないわ」
あすか「イサチノミコトは、兵隊連れてサホ彦を討ちに行った。サホ彦のほうも軍隊を集め砦を作って迎え撃つ準備をしていた。でもイサチノミコトの軍が砦をぐるっと囲んだんだ。戦況はフィフティーフィフティーだったのがイサチノミコトに有利になった。で、サホ姫は自分のせいで兄がこんなことにと心配になるんだなこれが。だけどその時、サホ姫は妊娠していたんだ。その身重の身体で、なんと砦に行っちゃったんだよ」
クリスタル(右)「まあ、なんてドラマチック!」
アンバー(左)「サホ姫、バカじゃん」
あすか「今度はイサチノミコトはサホ姫が心配で、サホ彦に攻撃をかけることが出来ない。しばらく膠着状態が続いたが、サホ姫は砦の中で男の子を産んだ。この時、サホ姫は兄と運命を共にしようと心を決めた。生まれた赤子を抱いたサホ姫は子どもを育ててくれとイサチノミコトの軍に向かって言った。イサチノミコトにとっては、これはサホ姫を取り戻すまたとないチャンス。サホ姫の兄への思いを知りつつも、部下になんとしても子どもだけでなくサホ姫も連れて帰れと命令した。サホ姫もイサチノミコトの考えを分かっていたから、髪を切ってカツラをかぶり、腕輪の糸を緩め、服をボロボロにして出向いていった。部下が赤子を受け取るとサホ姫もつかまえんとして髪を掴めば脱げ落ち、腕輪の糸を掴めば切れ、服を掴めばちぎれて、サホ姫は砦に戻ってしまった」
アンバー「どういう心境かしら」
クリスタル「赤ちゃんは無事にイサチノミコに手渡されたのね」
あすか「イサチノミコトはなんとかしてサホ姫に戻ってきてもらいたくて、赤子を抱いて砦に近づき、端にいたサホ姫に声をかけた。『子どもの名前は母親がつける決まりだ。この子に名前をつけてくれ』とね」
アンバー「え?子どもの命名権って母親にあるの?」
あすか「ま、この頃はそうだったのか、イサチノミコトの詭弁か知らんけど、とにかくそういうことだから、『ワケノミコ』という名がついた」
あすか「イサチノミコトはとにかくサホ姫に話しかけ続けた。乳をやるのはどうしたらいいかとか、お前なしで誰を愛せようかとか、必死だったんだけど、サホ姫の決心は変わらなかった」
クリスタル(右)「かわいそう」
アンバー(左)「結局諦めちゃったのかな」
あすか「陣に戻ったイサチノミコトはサホ彦の砦に攻撃開始した。砦を守っていた軍隊は次々逃げ出した」
アンバー「じゃあ、サホ彦とサホ姫は……」
あすか「サホ彦のもとにイサチノミコトの兵隊がどっと押し寄せ、討ち死にしてしまった。砦は焼かれ、サホ姫も火の中に飛び込んでしまった。イサチノミコトは、焼け落ちていく砦をただ泣きながら見ていた。おしまい」
クリスタル「なんて悲しいお話……。私、中学受験の面接の時、日本の好きな物語ありますかって聞かれたらこのお話にするわ」
アンバー「死んじゃ元も子もないわ。サホ姫はイサチノミコトと深く愛し合ってるのに兄と心中なんて意味不明」
あすか「ま、古代史の神話の域に入っちゃってる頃の事情なんて分からないからねー」
アンバー「あすかっちって、時々友達と話が合わなくなることあるんじゃない?」
あすか「そんなのしょっちゅうだよ」
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19コマという長さにお付き合いいただきありがとうございます。
お疲れ様でした。
日本の古典「古事記」の中でも人気のサホ姫のエピソード、皆さんもご存じかもしれませんが飛び抜けて純愛ものだったからでしょうね。
生まれた娘さんにサホと名付けた方もいらしたことでしょう(昔だと思うけど)。
悲しい悲しい、愛の物語でした。
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