あすか「ラジオの人生相談室の生番組に呼ばれたんだけどね。あらかじめこれこれこういう内容のハガキを読んでこういう感じで答えてねって言われたのさ。でもね、そのハガキの内容ってのが超ヘヴィなんだ。差出人が、ある産褥明けのおかあさん。『難産の末、生まれたのが女の子だったんで、モエとかクルミとか可愛い名前をつけたかったのに、夫の親戚の昭和の義伯母たちが、女の子だからたくさん子どもが産めるよう"繁子"とつけなさい、って言ってきて、反対したら産褥で動けない間に勝手に出生届を出されてしまった。令和に繁子はあんまりだ、苦しんだのは私なのに名付けの特権を奪われ、もうこの子を愛する自信がなくなった。どうしよう』っての」
久美子「昭和なら分かるけど、この令和にシゲコはちょっと地味かな……で、なんて答えたの？」
あすか「『役所に登録して変えられないのは漢字だけです。繁子と書いても当て字として読み方を変えることはいくらでも出来ます。たとえば繁という字は子孫繁栄の意味がありますよね。そしたら実が成るように"なる"、子の字は種の意味もあるから実の字から"み"、で"なるみ"とよませたらどうでしょうか。これはほんの一例ですが、他にも気に入った名前があったら当て字をオススメします、今すぐにでも届け出せば出来ますよ』って答えたの」
久美子「うわー、すごいこと聞いちゃった！もともとはどう答える予定だったの？」
あすか「『繁子という名はとてもよい名前です。名前ひとつで愛せないなんて心の狭いことを言わないで、愛情を込めて名前を呼んであげましょう｡その子は将来、大変よい子に育つでしょう。いつか思い出話になりますよ』みたいな感じで私っぽく喋ってくれって言われたんだけど、私のキャラじゃ無理だろそういう答え。だいたい中学生にそんな優等生過ぎた答え、変だろ」
久美子「ま、模範解答ね」
あすか「ただ、このあと局に賛同と苦情の声がだーっと来たけどね。うちのお母さんシゲコですが何か？とか、キラキラネームよりましだこのバカとか、消えろ思い上がりとか、すごかったけど、好意的な意見も多かった。そのうちリスナー同士で喧嘩を始めたから、私、もうこの番組に呼ばれることはないだろうね」
久美子「こっわーい。あんた無事で済むと思う？」
あすか「だって、Twitterは編集部が運営してるもん｡私関わってないもん｡知らない。名前ひとつで愛せなくなるなんて、よくあることなんだよ。娘に夫が元カノの名前をつけたら愛せなくなったって母親、けっこういるんだよね｡呼び方ひとつでラクになるならいいじゃないのさ」
久美子（右）「そっかー。考えてみればあたしも昭和な名前よね。呼び方をイマドキのに変えたらどうなるかしら」
あすか（左）「久美子ちゃんって美人に育つ名前の印象強いから、変える必要ないんじゃない？」
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その後、あすかっちはハガキを出した母と娘から大変感謝されたのですが、そのことはまだ今のあすかっちは知りません。
結局、繁子さんは呼び方を変えませんでしたが、いつでも好きな呼び方に変えられるという希望があるからと、笑っていました。
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