しばらくは『日本書紀』の記述を確認しながら読んでいきたいと思います。
『日本書紀』はその書き出しで、天地(あめつち)や陰陽の区別もつかない混沌とした状態があったと記します。
そこから天が出来、地が定まります。これは「天地開闢神話(てんちかいびゃくしんわ)」といわれます。そして、『日本書紀』の天地開闢の記述については、中国古典の『淮南子(わいなんし/えなんじ)』を参考にしたともいわれています。
それに続いて、最初の神がお生まれになります。
その神の名は、国常立尊(くにのとこたちのみこと)です。
次に、国狭槌尊(くにのさつちのみこと)、その次に豊斟渟尊(とよくむぬのみこと)がお生まれになります。この三柱の神は、陽気のみを受けて生まれたので、純粋な男性神であったとされています。
神々はまだ次々とお生まれになります。
次は、埿土煑尊(ういじにのみこと)と沙土煑尊(すいじにのみこと)。次は、大戸之道尊(おおとのじのみこと)と大苫辺尊(おおとまべのみこと)。次は、面足尊(おもだるのみこと)と惶根尊(かしこねのみこと)。そして、その次が広くその名を知られる伊弉諾尊(いざなぎのみこと)と伊弉冉尊(いざなみのみこと)です。この四組八柱の神々は、陽気・陰気が交わってお生まれになったので、男性神・女性神となっています。
そして、国常立尊から伊弉諾尊・伊弉冉尊までを神世七代(かみのよななよ/かみよしちだい)というと記されています。『日本書紀』が記す神世七代の神々の総数は十一柱です(図表1)。
■図表1 『日本書紀』の神世七代の神々
しかし、『古事記』の記述は『日本書紀』とは大きく異なっています。
『日本書紀』に対応すると思われる国之常立神(くにのとこたちのかみ)、豊雲野神(とよくもののかみ)という二柱の独神(ひとりがみ)とそれに続く五組十柱の男女神は登場するのですが(『日本書紀』では三柱の独神と四組八柱の男女神ですが)、それより前に特別な五柱の天神(あまつかみ)がおられたことになっているのです。
最も早くお生まれになったのは天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)であり、続けて高御産巣日神(たかみむすひのかみ)、神産巣日神(かみむすひのかみ)、宇摩志阿斯訶備比古遅神(うましあしかびひこぢのかみ)、天之常立神(あめのとこたちのかみ)が特別な神とされています。
天之御中主神は、『日本書紀』では「一書曰(あるふみにいわく)」として異伝の中に、天御中主尊(あめのみなかぬしのみこと)という名前で一度触れられるだけで、本文中には登場しません。
高御産巣日神も、『日本書紀』では高皇産霊尊(たかみむすひのみこと)という名前で、天忍穂耳尊(あめのおしほみみのみこと)の義父として登場します。天忍穂耳尊は大日孁貴(おおひるめのむち)(天照大神(あまてらすおおみかみ))の子ですから、天地開闢よりは世代がかなり下ります。また、『古事記』においても、天忍穂耳命の義父として高木神(たかぎのかみ)がおり、それが高御産巣日神だと考えられています。
『古事記』がなぜ源初の神として天之御中主神や高御産巣日神を特別に設定しているのかについては、答えを出すことはできませんが、『日本書紀』との違いを確認して時代を下っていきたいと思います。(続く)
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