ミルは、キリスト教も他の宗教と同じく完全ではない、と考えた

ミルは、思想と言論の自由などは、昔はどこにもなかったと書いています。

その例として、ソクラテスの話を挙げています。アテネ人のソクラテスは、当時のアテネの宗教を疑い、自分の考えを正直に若者に話しました。彼の主張は正しいのですが、かなり刺激的でした。この発言がアテネ人の大人たちを怒らせ、彼は裁判で死刑になりました。

イエスは、当時のユダヤ教に反する教えを説いたために、ユダヤ教の大祭司を怒らせ、死刑になってしまいました。ミルは、イエスを死刑にした大祭司のカヤパは常識的でまともな人物だった、と書いています。

このようにミルは歴史上の事実を述べて、「完全に正しい宗教や思想などない。その時々の人々の考え方にどうしても影響される」と書いています。「だからキリスト教といえども、完全な真理を説いているわけではない」という方向に、論を進めています。

中世のカトリックは、信者の心を統制して異端の教えを厳しく弾圧しました。これに反発したプロテスタントが反乱を起こしてカトリックの支配をひっくり返しました。そうしたら今度は、プロテスタントの政権はカトリックを弾圧しました。

また、無神論者は一貫して弾圧されていました。ミルは当時のイギリスで起きた事件を紹介しています。盗難に遭った外国人が「自分は無神論者だ」と告白したために、賠償の請求を拒否されました。ウソをつくことを拒否した高潔な人物が不当な扱いを受けた、とミルは書いているわけです。

このように、ミルは宗教というのは偏ったものであり、キリスト教もその例外ではない、と書いています。その上で、思想の自由と言論の自由が大切な理由を、次のように説明しています。

「人間は、その時代の常識や雰囲気などに左右されて判断を誤る。その一方、人間だけが経験と議論によって、自分の誤りを改めることができる。正しい判断をするには、反対意見をよく聞かなければならないから、誰でも自由に思想を言える場が必要なのだ」

以下はひと続きのシリーズです。

5月17日 「企業は社会的公器」という考え方が怪しくなってきた

5月18日 経団連はもともと、天下国家を論じる組織だった

5月19日 陸奥宗光は、自由主義に基づいて富国強兵策を実践した

5月20日 明治初期の日本人は、自由主義を原則としていた

5月21日 『自由之理』を読んで、日本人はFreedomの考え方を知った

5月22日 民主主義の時代になると、多数派から少数派を守ることが重要になる

5月23日 ミルは、子供や未開人には自由はない、と主張している

5月24日 日本の独立には、文明国になること、Freedomを認めることが不可欠だった

5月25日 他者を益する行為を人に強制することは、正しい

5月26日 ミルは、Freedomの考え方とキリスト教の関連を断とうとした

5月27日 ミルは、キリスト教も他の宗教と同じく完全ではない、と考えた

5月28日 ミルは、キリスト教徒以外にもFreedomを認めた

5月29日 日本人が学んだのは、キリスト教を消したFreedomの考え方

5月30日 Freedomはキリスト教の本質である

5月31日 ルターは、カトリックの修道士になったが、教義に疑問を感じた

6月1日 ルターは、キリスト教は他力本願だ、と主張した

6月2日 イエス・キリストを信じるだけでいい

6月3日 イエスを信じたら、もはや律法を気にする必要はない

6月4日 心正しいキリスト教徒に限って、律法を破っても良い場合がある

6月5日 ルターの「律法からの自由」とミルのFreedomは同じ考え方である

6月6日 バーリンは、積極的自由を否定した

6月7日 バーリンのように、積極的自由を否定するのがこれまでの主流だった

6月8日 明治初期の政府は、税金を投入して自由主義経済を育てた

6月9日 自由競争は、優れた者にだけ適用される

6月10日 経団連の幹部は、自由を誤解している

6月11日 Freedomの誤解と大アジア主義の幻想の根底には、大乗仏教がある

6月12日 大乗仏教は、民族の違いなどなく、勝手気ままな態度が正しい、と教える

6月13日 経団連幹部は、自由主義経済を大乗仏教の教義で解釈している

6月14日 出家しているはずの僧侶が、俗世に関わるようになった

6月15日 Freedomを自由と訳したのは、一種の神仏習合

6月16日 神様の息には、命が含まれている

6月17日 キリスト教も神道も、神は自分の魂を人間に付着させて心を正しくする

6月18日 Freedomは、日本語に訳さないほうが良いかもしれない

6月19日 アメリカは、Freedomが原因でエネルギーを浪費している

6月20日 日本人は誠の意味をきちんと理解し、誠のない国から日本を守らなければならない

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