ゆらゆら荘にて

このごろ読んだ面白い本

「世田谷イチ古い洋館の家主になる」 山下和美

2024-04-26 | 読書日記

「世田谷イチ古い洋館の家主になる」1 (山下和美著 ホーム社) を読みました。

新聞に紹介されていた
(洋館保存のために家主になって
大きな借金を背負った著者が
「描くぞ」(借金を返すために)と決意した)話を読んで
クラウドファンディングならぬ
クラウド本ディング(本を買って応援する)になれば
と。

北海道に住んでいた子供のころから「素敵な建物」好きだった著者は
(お父さんは大学教授)
間取り図を描くのが大好きな子どもだった。
(わたしもです)

漫画家になって世田谷に住むようになった著者は
通りかかるたびに
この「水色の洋館」に胸をときめかせていた。

この洋館の名前は「テオドラ邸」
テオドラ英子は尾崎行雄の妻で
尾崎三良男爵の娘。
(同じ尾崎なのは偶然)
つまりは尾崎三良が娘テオドラのために建てた家で
現在はギャラリーになっている。

戦後は借家人たちが住み
その中には島尾敏雄の息子で写真家の島尾伸三一家もいた。
(島尾伸三はテオドラ邸ギャラリーで
写真展「洋館で暮らした私たち」を開いている)

見通しを立てて
きっちりしなければ気が済まないタイプの著者が
締め切りに追われながら
今まで会ったことのないタイプの人たちと会い
たくさんの味方を得て
テオドラ邸の家主になる
話です。

3巻まで出ています。

用語が難しくて
マンガだと舐めてかかると
えらい目に遭います……

 

 

 

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シリーズ古代史をひらく 「前方後円墳」

2024-04-25 | 読書日記

シリーズ古代史をひらく「前方後円墳」(吉村武彦他著 2019年5月 岩波書店 312p)を読みました。

前方後円墳は謎に満ちている。

どうしてあの形?
(ひょっこりひょうたん島のような)
なぜ造られるようになって
なぜ、ぱたりと造られなくなったのか?
朝鮮半島にもあるのは、なぜか?

執筆者の中に韓国の学者を迎えている本書
そのあたりが分かる?
と思って読んでみました。

復元された前方後円墳に登った時
前方部から接合部で一度下がって
後円部に上っていく落差が思ったよりもダイナミックで
後円部の高さの効果を感じたのでした。
しかし
観衆はいったいどこに居たのでしょう?
彼らが前方部から後円部に向かって歩いたとは考えられません。
その動きをしたのは一部の人だと考えると
果たしてあの形は何のため?
と謎は深まるばかり。
(美しいけれど)

前方後円墳を造るのにどのくらいかかるかを
大山古墳を例に計算すると
(大林組の試算によれば)
工期は15年8カ月
総工費は797億円
人員はのべ680万人(1日あたり1200人)となるという。

前方後円墳は墓であったばかりでなく舞台でもあった。
(やっぱり観衆が)
貴人が死ぬとその魂は船に乗って他界へ行く
(エジプトと同じ?)
と考えられていた。
死者の魂を無事他界へと送り届けるための装置が古墳だったのである。
死者は古墳の造り出し(出っ張り部分)で船を降り
古墳の頂上に置かれた埴輪の世界
(家や海の幸、山の幸が盛られた高坏など)
に住むことになる……

謎はそんな解明されていない
発掘が進んでいないから
(宮内庁の管轄下だから)
う〜ん

 

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「神田ごくら町職人ばなし」 手塚治虫文化賞新生賞

2024-04-22 | 読書日記

「神田ごくら町職人ばなし」(坂上暁仁著 2023年9月 リイド社)が
手塚治虫文化賞・新生賞に!

(ずっと読んでみたいと思っていたら
マンガ大賞の候補になったので
もう、これは読むしかないと)

短編集です。
桶職人
刀鍛冶
紺屋
畳刺し
左官
女性職人が主人公です。(違うものもある)
舞台は江戸

まだ底の入っていない桶越しに描かれている職人の顔のアップ
熱した刀を水に入れた瞬間、だけで4コマ
どれもいいけど
左官の章がいい。

手拭いを巻いた頭が振り返ると顔は女。
長兵衛店(だな)左官のお七で長七は
蔵を任されている職人頭だ。
腕を持っているけれど
人をまとめていくのは難しい。
何かと妨害するのは六次
左官の腕もいいが、腕っぷしも強い
で、すぐに腕をふるってしまう。
長七は思う
「あたしはただ土をいじるのが好きなだけなのに」
女が頭になったことで周囲の気が緩むことを懸念して強く言うと
反感を買う。
何も言えなくなった長七は
夜に一人で職人が塗った壁の直しをするようになる……

「統べる」難しさに直面しながらも
いい蔵を塗り上げたい
と思う長七の迷い、悩む姿が描かれます。

「一」だから続編も出ます。

 

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「うらはぐさ風土記」 中島京子

2024-04-17 | 読書日記

「うらはぐさ風土記」(中島京子著 2024年3月 集英社 273p)を読みました。

夫バートの浮気で離婚し
勤めていた大学での講師の仕事が無くなって
30年ぶりにアメリカから帰って来た主人公・沙希
人生の大転換点
のはずなのに何だか実感がない。
ぽけっとしている。

というところに
母校の大学から講師の口が舞い込み
住まいは
祖父の家を貸してもらえることになって
(祖父は今は施設にいる)
「うらはぐさ」での暮らしがはじまる。

30年ぶりの日本での暮らしでは
(自分を浦島花子だと自認している)
何とも奇妙な味のある人たちが沙希の周りを巡る。

庭の手入れをしてくれる秋葉原さん。
商店街の足袋屋の主人で
店の屋上で「屋上菜園」をやっている(!)
「これまで一度も、働いたことがありません」
「もう、この年になると、おんなじだもんね」
(働いていてもいなくても)
と胸を張る。

妙な敬語を使う大学1年の亀田マサミ。
周囲から浮きたくないと言いながら
(浮いていることには気がついていない)
学園祭の弁論大会に出て
うらはぐさに特攻隊の基地があったことを熱く語り
感極まって倒れて、救急車で運ばれたりする。

戦争から帰って来て
満月の夜には狼男のように吠えるようになった
秋葉原さんの今は亡き父親。

コロナで除夜の鐘が中止になった境内で出会った
寺の住職。

一緒に商店街の焼き鳥屋に行くようになった
ゲイの大学講師。

秋葉原さんを講師に迎えて
コロナ下の学校で屋上庭園を始めようとしている
小学校の校長……

得とか損とか
考えない人たちが住んでいるうらはぐさ

大好きな「かたづの」
(中島京子作のファンタジー+時代小説)と同じ世界に
また出会えて
嬉しいです!

移住希望

 

 

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「小公女たちのしあわせレシピ」 谷瑞恵

2024-04-11 | 読書日記

「小公女たちのしあわせレシピ」(谷瑞恵著 2023年10月 新潮社 302p)を読みました。

料理本ではありません。

「小公女」で「しあわせ」で「レシピ」と来たら
ずいぶん甘そうな感じがするけど
そうでもありません。

舞台は家族経営の小さなビジネスホテル。
そこにメアリさんという老女が長期滞在していた。
自分の家を持たず
ホテルに住んでいたひと。
まぁ、お金はあったらしい。
メアリさんは、ある日、外で倒れて死んでしまう。
どこの誰とも分からないメアリさんは
行路病死人という扱いになってしまう。
ピンクの服に麦藁帽子、大きなスーツケースを引いて、ミニ豚を連れていたメアリさん。
スーツケースには
古い児童書がいっぱいにつまっていた。
メアリさんは
その本を、あちこちに置いて歩いていた。
作品にちなんだお菓子のレシピを挟み込んで。
レシピはホテル備え付けの便箋に書かれていたので
拾った人は
次々にホテルを訪れる。

人は、誰でも、行き詰まってしまうことがある。

ルームシェアしていた友人が結婚することになって
住まいのこと、仕事のをことを考えざるを得なくなったつぐみ

母親と二人暮らしのつましい暮らしを
クラスメートに否定されてしまった中学生の理奈

夫や息子に存在を認めてもらえないと考えて家出した詠子

幼い頃
海で溺れた時に母の見せた顔がトラウマになっている獣医の蒼

これまで生きて来た道を
何となく否定的に考えてしまっている和佳子
……

メアリさんの本を拾って
挟み込まれていたレシピにあるお菓子を作ることによって
行き詰まっていた気持ちが
ふわっと解けていく。
お菓子を作るというささやかなことで。
行き詰まりが解けるのは
案外ちょっとしたきっかけなのかもしれない。

「小公女」のぶどうパン
「トムは真夜中の庭で」のトライフル
「不思議の国のアリス」のトリークタルト
「ドリトル先生」のスエットプディング
「メアリー・ポピンズ」のジンジャーパン
「秘密の花園」のオーツケーキ
……

お菓子は
なかなかシック


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「水車小屋のネネ」 本屋大賞第2位

2024-04-10 | 読書日記

「水車小屋のネネ」(津村記久子著 2023年3月5日 毎日新聞出版刊)が
本屋大賞の2位に!
予想以上です!

 

文中に挿絵が多いなあ
と思ったら
新聞連載小説なのでした。

ネネというのはヨウムという鳥
ヨウムの寿命は50歳くらいで
3歳児くらいの知能を持っている。
ネネは水車小屋に住んでいて
蕎麦粉を挽く手伝い(見張り番)をしている。

住み込みで働ける仕事を探していた理佐は
「鳥の世話じゃっかん」という求人票を出した蕎麦屋に勤めることになる。
18歳の理佐は、母と8歳の妹律と3人で暮らしていた。

母子家庭暮らしに疲れた母が恋人をつくり
理佐はアルバイトをして貯めた入学金を恋人に貢がれ
家を出る決心をする。
母の恋人は
律に暴言を吐いたり
夜に家から追い出したりしていた。
理佐は律を連れて出ることにする。

第一話(1981年)は理佐の物語。
理佐の仕事は蕎麦屋での接客と
水車小屋で蕎麦粉を挽くことと
ヨウムのネネの世話だ。
蕎麦屋のおかみさんは鳥アレルギーで
亡き父が世話していたネネに近づくことが出来ない
ので理佐を雇ったのだ……

10年後が描かれる第2話(1991年)は聡の物語。
律は18歳になっている。
高校を卒業した律は
大学に入るための資金を貯めるために働いている。
ネネの世話を買って出、姉妹とも親しくしてれた画家の杉子さんが亡くなり
杉子さんの家は、遺言で「居場所のない人」の住まいとして提供されることになった。
家を借りたのは聡という青年だった……

さらに10年後の第3話(2001年)は研司の物語。
離婚後心を病んだ研司の母は
生活のバランスがとれなくなっている。
中学3年の研司は
ある出来事をきっかけに律と知り合う……

著者は言う
「誰かが誰かを丸抱えしたり過剰に助けたりもしない
無理のない親切をみんながする話にしたかったんです。
それも余りご飯持ってけとか
冷蔵庫使いなよとか
その程度の良心なんです。
逆にベタベタしすぎる方が読者を疎外しかねないし
出る人も入る人も普通にいるアッサリした関係の中に
この姉妹を置きたかった」

いい小説は山場なんてなくてもいい
と思いました。

 

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「ようこそ、ヒュナム洞書店へ」 本屋大賞翻訳小説部門 第1位

2024-04-10 | 読書日記

「ようこそ、ヒュナム洞書店へ」(ボルム著 2023年9月 集英社)が
本屋大賞 翻訳小説部門第1位になりました!

モモタロウ・ストーリーになっている。

勤めを辞めて書店を始めたヨンジュの前に
現れる人たち。
ブック・カフェとして営業するためにバリスタを募集すると
ミンジュンという青年が。
常連になったヒジュは店で読書会を開くようになり
ヨンジュの呼びかけで講演をした作家のスンウは
ヨンジュが依頼を受けて書いた原稿を見てくれるようになる。
イベントが増えて多忙になったら
サンスという読書好きの青年がバイトに立候補し
客たちに本を薦める役をしてくれるようになる……

「和音が美しく聴こえるためには
その前に不協和音がないといけない。
今生きているこの瞬間が
和音なのか、不協和音なのか……」
という今を登場人物たちは生きている。

ヨンジュは書店を開いた経緯をスンウにこう言う。
「アリストテレスの「幸福」は
最後の瞬間の幸福のために
長い人生を人質にとられているのと同じだと思いました。
だから、わたしは幸福ではなくて
「幸福感」を求めて生きようって、考えを変えたんです」

小説家のスンウは店に来ていた高校生の質問に答えて言う。
「気持ちがすっきりするのだけが良いことじゃない。
複雑なら複雑なまま
モヤモヤするならモヤモヤしたまま
その状態に耐えながら考え続けないといけないときもある」
(おやおやネガティブ・ケイパビリティではありませんか)

バリスタのミンジュンは思う。
「過去のミンジュンが現在のミンジュンを受け入れ
現在のミンジュンが過去のミンジュンを受け入れた気がした」

「互いの距離感を保てる人同士の友情とゆるやかな連帯」
を描きたいと思ったという著者
雰囲気を
「かもめ食堂」や「リトルフォレスト」のようにしたかったとも言う。

人と人の距離感がいいです。


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「卒業生には向かない真実」 本屋大賞 翻訳部門第2位

2024-04-10 | 読書日記

「卒業生には向かない真実」(ジャクソン著 2023年7月 東京創元社)が
本屋大賞 翻訳小説部門 第2位に。

「自由研究には向かない殺人」
「優等生は探偵に向かない」
の続編(ミステリ)です。

主人公を苦しい状況に置き
それを取り除く
(指圧効果=ギュッと抑えてから取り除くと血行がよくなる)
という小説の場合
どれだけ容赦なく主人公を苦しい状況に置けるかが腕の見せどころ
だとは思うけれど
これはもうすごい。

あの
「賢くかつ愛らしいが、すこしクセの強いオタクめいた少女」(訳者)ピップが
冒頭から
「隠し持ったプリペイド携帯で
精神安定剤を注文して
それを飲まないと眠れない」のだ。
そして
誰にもそれを相談できずにいいる。
母、義父、恋人のラヴィ、友人たち
の誰にも。

2作目で遭遇した事件の影響だ。
加えて
繰り返される
不気味なメール
チョークで描かれた頭のない棒人間の絵
頭が切り取られた鳩の死骸
がピップの精神を削っていく。

前2作では探偵役だったピップが
この作品では
探偵である前に被害者なのだ。

ストーカーは誰なのか?
(小さな町リトル・キルトンではほとんどの人が知り合いだ)

何度も危機に陥るピップ。

その度にピップは考えに考え抜く。
「鋼の心」をもって。

もう大丈夫
と思った592ページ(残りのページは少ない)
ピップが再び危機に陥る
ところがいちばん怖いです。






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「BLANK PAGE 空っぽを満たす旅」 内田也哉子

2024-04-04 | 読書日記

「BLANK PAGE  空っぽを満たす旅」(内田也哉子著 2023年12月 文藝春秋 288p)を読みました。

ご存知樹木希林と内田裕也の娘で本木雅弘の妻の内田也哉子のエッセーです。
(ご本人は、こう言われるのは嫌かもしれない)

人に会って
そのことを書いている。
ちょっと一般人とは違うな
と思うのは
谷川俊太郎
養老孟司
坂本龍一
桐島かれん
是枝裕和
横尾忠則
などの会った人のほとんどが既に知り合いであるということ。

樹木希林は著者を「人」に会わせることに熱心だったというから。

どの人とも
母と子、父と子の関係について話題が収斂していく。
著者は、両親を亡くして間もない時期だった。

面白く読んだのは写真家の石内都と会った話。
石内都は亡き母の下着を作品として撮っている。
石内のお母さんは
群馬県で2人目の(女性で)自動車免許取得者だ。
バス、ハイヤー、ジープ、何でも運転した。
1人目の夫が戦死したので
7才下の石内の父と再婚した。
ところが1人目の夫がひょっこり帰って来た
ので1人目の夫と慰謝料を払って離婚し、1ヶ月後に石内が生まれた。

石内は
写真を習ったことはない。
27才の時に知人からカメラと現像の道具を貰って写真をはじめた。
自己流で撮っているうちに32才で木村伊兵衛賞を受賞する。
母の遺品を撮ってから
頼まれてフリーダ・カーロの遺品も撮っている。
広島の原爆犠牲者の遺品も撮っている。
ライティングはわからないので
いつも自然光で撮っている。

石内は言う。
「こういうふうにいろんなことに気づき
面白くなったのは60才からですよ
知らないことがまだまだある」


誠実に悩んでいるひと内田也哉子

 

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「リカバリー・カバヒコ」 青山美智子

2024-04-03 | 読書日記

「リカバリー・カバヒコ」(青山美智子著 2023年9月 光文社 234p)を読みました。

本屋大賞の候補作です。
(4月10日発表)

小さな公園にあるカバのアニマルライド(人形)、カバヒコ。
喋りも動きもしない
ただいるだけ。
だけど
治したいと思っている部分にさわると
回復する
と言われているカバなのだ。

思うように成績が上がらなくて悩んでいる高校生

ママ友との付き合い方に悩んでいる母親

耳が不調で仕事を休職している若い女性

足が痛い小学生

長年営んで来たクリーニング屋をやめようかと悩む80代の女性

いかにもこの世に落ちていそうな悩みが取り上げられている。
そして
(カバヒコではなく)
登場した人の「言葉」によって
登場人物は悩みから方向転換していく。
まことに的確な「言葉」によって。

足が痛い勇哉に整体師が言う。
「足から意識を飛ばす」ように。
「痛いとか、治らないんじゃないかとか
足に意識が持っていかれていると
頭がが間違えちゃうからね
不安な気持ちには
立ち向かうよりそらすってことも大事なんだ
できれば何か楽しいことに意識を移動させられるといいね」
次の週、僕の体は治りましたかという勇哉に整体師は言う。
「人間の体はね
回復したあと、前とまったく同じ状態に戻るというわけじゃないんだ
その経験と記憶がつく
体にも心にも頭にもね
前とは違う自分になってるんだよ」


絶対安全読書。





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