ゆらゆら荘にて

このごろ読んだ面白い本

ヤービの深い秋

2020-11-17 | 読書日記
あたたかい日が続いて
(もう初雪も降ったのに)
ベニバナイチゴの花が咲いています。

「ヤービの深い秋」(梨木香歩著 2019年8月 福音館書店刊)を読みました。
「岸辺のヤービ」の続編です。




表紙に描かれているモコモコした小さな生き物がヤービ
でも
小さなものたちの世界だけが描かれているのではなくて
人間も登場する。

人間たちの世界は
サニークリフ・フリースクールの教師をしているウタドリさん
のいる寄宿制の学校の世界。
といっても
ヤービたちとの交流はウタドリさん1人の秘密。
ウタドリさんは
窓に合図があると
「麻糸と小枝で作った縄ばしご」を下げて
部屋に招き入れ
小さいものたちにカミツレのお茶をご馳走したり
学校近くの川にボートを浮かべているときに
小さいものたちが現れたりする。

ヤービはお父さんとお母さんと暮らしている。
木に登って風の通り道を感じるヤービに
お母さんは言う。
「ママも、ときどき見上げていたけれど
ヤービはひとりでとても機嫌よくしているなぁと思ってたのよ」
ヤービは
「ひとりで機嫌よくしている」子をそっと見守るお母さんに育てられているのだ。

ヤービは子育ち中でもある。
(「わたしたちは、早飲み込みして、
ずいぶん長い間言葉の間違った解釈をしていることがありますが
それも楽しい失敗のひとつではあります。
いつか正しい意味が分かったとき
おどろきとよろこびがひとしおですからね」)

秋が深まるころ
ヤービの友だちのトリカは悩んでいた。
渡りのときに飲まなければならない薬がもうないので
渡りに行かずに1人で残る
とお母さんが言っているのだ。
トリカは何とかして薬を手に入れたいと考える。
それはユメミダケというキノコから作られるのではないだろうか
と考えたヤービたちは
夜しかかさを開かないユメミダケ採りに出かけることにする。

そのころ
ウタドリさんの教え子のギンドロも
また悩みを抱えていた。
昏睡状態にあるお母さんの状態がよくないのだ。
ある日ギンドロは
寄宿舎の部屋の壁の隙間から
「もしあなたがゼツボウするような気持ちでいるのなら
深い秋の満月の日に
テーブル森林渓谷に行ってみて」
という古い手紙を見つける。

同じ日
同じ場所を目指して出発する
小さいものたちとウタドリさんたち
……

どのページにも
「よろこびを見つけ出す力は
悲しみを感じとる力でもある」
「心からよろこんだり悲しんだり
変わりゆく自然を愛しんだりするきちを
決してあきらめないでほしいのです」
のように
筆者から子供たちへのメッセージがあふれています。

(探検に行くのに
リュックに10冊も本を詰め込んで
お母さんに止められるお父さんのほのぼのぶりもなかなか)


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