ゆらゆら荘にて

このごろ読んだ面白い本

雲を紡ぐ

2020-02-25 | 読書日記
「なでし子物語」シリーズの伊吹有喜の新作
「雲を紡ぐ」(伊吹有喜著 2020年1月文藝春秋社刊)を読みました。




主人公は不登校になっている高校生の美緒
美緒は赤いショールにくるまっていると落ち着くのだ。
ショールは父の父母が
美緒のお宮参りに贈ってくれたものだ。
祖父が染めた羊毛の糸で祖母が織ったホームスパンだ。
祖父は盛岡で山崎工藝舎というホームスパン工房をやっている(らしい)。

祖母の葬儀の時に
父と祖父の間にあった出来事以来
美緒は祖父に会ったことがない。

ある日
美緒は衝動的に盛岡に向かった。
祖父に会うのは赤ん坊の時以来だ。

高校の教師をしている母の真紀は
担任するクラスのいじめ問題をきっかけに
ネットの掲示板に悪口を書かれるようになっていた。
電気製品を作る会社に勤めている父の広志は
リストラの候補になって以来
カフェで時間をつぶしてから帰宅するようになっている。
真紀は子育てに口を出してくる母親との関係に悩み
広志は自分の母親と工房を分かった父親を許せないでいる
……

祖父は美緒に問う。
「本当に自分のことを知っているか?
何が好きだ?
どんな色、どんな感触
どんな味や音、香りが好きだ?
何をするとお前の心は喜ぶ?
心の底からわくわくするものは何だ?」
何も答えられない美緒。
しかし
ここから美緒は立ち上がっていく。

祖父の教えを受けて
糸を洗い
糸を染めて
糸を紡ぎ
糸を織る工程を
丁寧にたどるうちに
少しずつ自分を取り戻していく美緒。

平行するように
祖父は
少しずつ工房を整理して行く
……

世にあるチェーンのカフェにしか居場所のない広志
逃げ込めるお気に入りのカフェをそれぞれに持っている
工房に関わる登場人物たち

ホームスパンについて語り
盛岡の街案内をするように
物語が展開していくのが魅力です。




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