前回記事と同じような内容になりますが、コロナ不況の深刻化がかなり目立ってきています。このままですと年末から年明け以降に企業倒産や廃業、そして失業が大量発生する危険性が高まってきました。来年春卒業の大学生の就職内定率が7割を切ってしまっており、就職氷河期の再来というべき状況になってきています。就職内定率が7割を切るのは2015年以来ということですが、そうなってくるとアベノミクスが誇る最大の成果が失われ、元の木阿弥となりかけつつあります。
つい先日今年2020年7月~9月期の国内総生産(GDP)が年率換算で21.4%と「記録的な高成長だ」と報道されましたが、きわめて先行き不透明で不安定な現在の経済情勢において年率換算は意味が薄く、12か月を4で割った一期分が前年度比5%上がったといった方が実情に近いでしょう。
元参議院議員の金子洋一さんは
GDP7~9月年率21.4%増の報道で安心してはいけない。データを見れば昨年の消費増税前の年率GDPは539.4兆円。それがコロナ禍で55.8兆円減少して、そこから上向いたとはいえ507.6兆円で、昨年と比較すれば31.8兆円、−5.9%もの減少だ。一刻も早く消費税減税と財政出動が必要だ。 pic.twitter.com/Pr38HJIeQ0
— 金子洋一・前参議院議員(神奈川県選出) (@Y_Kaneko) 2020年11月16日
とツイッター上で指摘されました。
同じく金子さんのツイートで知ったAERAの記事ですが、コロナ禍によって経営悪化に陥った企業が人員整理に着手せざるえなくなり、解雇や雇止めをされた派遣労働者たちが路上生活者になってしまった人たちが急増しています。若年層でしかも女性が多く含まれていることが記事で書かれていました。
これは私の想像ですが、今回のコロナ禍で増えた自殺者ですが女性の割合が非常に高くなっていることと因果関係があるかも知れません。
こちらの記事もかなり悲惨な状況を伝えます。
どちらにしてもある日突然住む場を失ってしまうという問題です。両者ともども失業保険や今年春に支給された定額給付金10万円だけでは追いつかない状況でしょう。上の方の記事ですと路上生活者の支援を行うNPO法人が冬物衣服を提供したり、生活保護の利用手続きを手伝ったりしていますが、人間が生きる上で大事な生活基盤である住の確保が重要になってきます。所得が不安定で住居が会社の社員寮であるとか借家住まいであるという非正規雇用労働者が深刻な経済危機に遭遇して無所得状態になった場合の公的な救済制度の整備をしないといけないと思います。
現在の雇用保険は会社都合退職の場合で180日~最大330日、自己都合退職ですと90日分しか支給されません。この制度は終身雇用や完全雇用が当たり前だった高度成長期に整備されたものであり、失職してもすぐに次の仕事が見つかるという前提で設計されたものです。1990年代以降のように深刻な不況が10数年おきに発生し長期失業が当たり前となった現在の雇用状況に対応できなくなっています。生活保護についても非常に利用の申請がしづらい問題があることを何度もここで指摘してきました。
今年春より政府が国債を大量に発行して財源を確保し、かなり思い切った財政出動を行っています。政府だけではなく日銀も金融政策面で資金繰りが難しくなったり多くの負債を抱える羽目になった民間事業者の債務負担を減らすための手立てを打ってきました。にもかかわらず倒産・廃業に追い込まれた企業が多く出ましたが、それでも持続化給付金や雇用調整助成金などで息をつなげた企業は少なくないと思われます。しかしながら財務省は今年年末~年始を目途に持続化給付金や家賃支援金を打ち止めにすることを臭わせ、定額給付金再支給にも否定的な姿勢をみせてきました。もし政権与党が財務省の役人の言いなりになって財政を緊縮方向に向けてしまった場合は、これまで辛うじて事業を継続してきた民間事業者が廃業を決意したり、経営破綻に追い込まれる可能性がきわめて高いです。当然のことながらそれによって失職する勤労者が一気に増加し、新卒学生がなかなか就職できないという状況に陥るでしょう。2008年末に起きた年越し派遣村みたいな状況が再び訪れるということもありえます。
ただ少し希望が持てるのは与党自民党内においても30兆円~40兆円以上の財政出動が必要だと主張する議員が出てきたことです。何度か紹介した経世済民政策研究会メンバーの長島昭久議員や三宅伸吾議員らだけではなく、世耕弘成参議院幹事長も同様の経済対策をすべきだと発言しました。これは大いに歓迎すべきことでしょう。
世耕氏の発言を引用します。
「年明けには企業倒産や失業率の上昇が起きかねない。GDPギャップをしっかり埋める補正予算にすべきだ」
「30兆円がボトムライン。30兆~40兆円ぐらいは必要ではないか」と述べた。「国土強靱(きょうじん)化でやることはいっぱいある。給付金その他もだ」
政治家や役人の利権につながりにくい現金直接給付型の定額給付金について取り上げる政治家はあまりいませんが、今回世耕氏はそれも忘れず言及しておられます。ここも大きく評価したいです。
持続化給付金やGoToキャンペーンの延長、国土強靭化、そして定額給付金の再支給といった政策をフルオプションで打ち出していくことが必須なのですが、いま懸念されることは日本経済がこのまま再びデフレ不況と雇用低迷が慢性化してしまうことです。それによって長期失業者や就業困難者が多く生まれる可能性が高まっています。上の対策はどちらかといえば短期集中型のものです。よく混同されますが、財政出動というものは財政政策の中でもそうした性格のことを指します。
もし仮にこのまま多くの日本国内の産業規模が委縮してしまい、雇用規模が回復しないままだとしましょう。そうなると厄介です。長期失業や第3の就職氷河期世代発生となってくると、持続化給付金・雇用調整助成金・GoToキャンペーン・定額給付金だけで企業の経営や長期失業者の生活を支え続けることはできないです。生活保護に代わる所得保障制度や住宅補助制度も用意しないといけないかも知れません。
生活保護に代わる所得保障制度として私はかねてより給付付き税額控除制度やベーシックインカム制度の導入を訴え続けてきましたが、これらの制度は給付金額が月額数万円程度と決して高いものではないですし、とくにベーシックインカムについては導入議論が混乱して実現性がかなり低いです。最低限の生活を保障する上で正直もの足りないです。仮に給付付き税額控除やベーシックインカムが実現したとしても、それを補足する制度がないと路上生活や自殺、餓死などに追い込まれる人が続出しかねません。
よくセーフティネットという言葉が用いられますが、これは自動車など機械の安全性と同じく0次安全性、1次安全性、2次安全性といった具合に多層化しておく必要があります。
私は防貧セーフティネットを次のように位置付けて考えています。
0次セーフティネット
=金融政策による企業の事業活動や雇用の安定化(菅総理的にいえば”自助”)
1次セーフティネット
=不況時の財政出動による企業支援や定額給付金などによる家計支援。景気落ち込み防止
2次セーフティネット
=失業者の再就職支援や職業訓練、訓練費や生活費の一時支給
3次セーフティネット
=給付付き税額控除やベーシックインカムなどによる家計支援
4次セーフティネット
=路上生活者保護、生活保護支給など
といった位置づけです。
自民党内の経世済民政策研究会の提言や世耕氏の主張は主に上でいう0次と1次セーフティネットが中心です。前者については2次や3次も含まれています。これによっていちばん最悪のオプションというべき4次セーフティネットが必要となる事態を回避するための予防安全策であるというのが私の受け止め方です。
しかしながらもう不幸なことに既に多重に用意された0次・1次・2次・3次セーフティネットすら突き破ってしまった人たちが多数出かかっているのです。安倍政権時代は0次セーフティネット対策についてかなりしっかり頑張っており、それによって4次セーフティネットで救済しないといけないような人を大きく減らしましたが、コロナ禍によって1次セーフティネット、2次セーフティネットを用意せざるえなくなりました。さらに今後4次セーフティネットまでしっかり張っておかねばならないような事態を迎えようとしています。
こうした対策案を示すと政府の財政事情を気にする人が出てきますが、日銀に国債を買い受けてもらうようなかたちをとってでも民間事業者や国民の生活を守るための経済対策を進め、さらには今回と同様の経済や雇用危機に備えたセーフティネットの整備を急がねばなりません。
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