あらすじ
大田区蒲田の有料老人ホームで転落事故が発生する。ルポライターの朝倉美和は事故に疑念をもち、以前取材した21歳の青年介護士小柳恭平を訝る。一見好青年の小柳だか朝倉の疑惑は消えず、立て続けに第2、第3の死亡事故が起こり・・・
以外ネタバレ含みますので、ご注意を!
絶えず問われる倫理観
物語はルポライター朝倉美和と、介護士小柳恭平の視点で進んでいきます。
高齢者の社会からの切り捨て、安楽死を否定したいが介護業界の実情を知り、自身の考えに自信を失いつつあるルポライター美和
高齢者の死の支援こそが慈悲であると信じるが、高齢者の大量虐殺を企てる過激な思想をもつ男に出会い迷いが生じてくる恭平
そんな2人の葛藤を描くことで、読者の頭も悩ませます。
直視したくない現実
恐らくこの小説は実際にあった2つの事件が元になっていると思います。
1つは川崎老人ホーム殺人事件
もう1つは相模原障害者施設殺傷事件
どちらも衝撃的な事件でした。
しかし、著者は悲惨の一言で終わらさず、裏に潜む介護業界の実態を読者に突きつけます。
介護は専門性も高く重労働ですが、待遇も未だ良くなく、介護士の社会的地位も仕事内容に比して決して高くありません。
離職率も高く、慢性的な人手不足で現場の介護士だけではサービスの低下を食い止めることはできません。
また、介護資源も有限なものなので、増える一方の高齢者に十分に分配できません。
そんな現状を今のままでいいと医師の黒原は恭平に囁きます。
優秀な人材を生産性のない介護業界に回したところでなにも生まない、それどころか国力を削いでしまう。高齢者自身にとっても不幸な延命などせずすっぱり命を断てるようにするべきだ、と。
黒原は“知的強靭さ”という言葉で、小柳を諭します
知的強靭ささえあれば、誰が非難しようと矜持をもって生きていける
高齢者の死を支援する小柳の支えとなる思想を吹き込みます。
黒原の言葉は一見甘言です。
非常に合理的で解を断言する姿は、魅力的です。
しかし、合理性のみを追求する社会の行く末には何があるのでしょう?
いずれは誰もが
介護問題は決して人ごとではありません。
自分の親や兄弟の介護が必要になるかもしれないし
自分自身もいつかは必ず老います。
安楽死は安易に決めていいことではないけど、議論はすべきだと思います。
24時間介護が必要というのは想像以上に過酷なことです。
介護経験者でないとわからない実情はたくさんあります。
自分のこととして考え、どうすればいいのか考え続ける必要があるのだと思います。
決して明るい話ではありませんが、考えるきっかけになる一冊だと思います。
お久しぶりです! 直ぐに本屋に向かっちゃいましたよー凄い気になる本の内容で。 急激に寒くて今日はおでんにしました。 タカさんも風邪引かないようにしてくださいね