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2019/09/18

角の生えた藁人形6

百物語 第九十六夜

角の生えた藁人形6


※怪談です。苦手な方はご注意ください。



 いや……お恥ずかしい。

 お恥ずかしい話ですが、失敗でした。

 全面的に、私のミスです。

 ただ、これに対してお経でも祝詞でも、式神にどこかへ連れ去るようにさせても……どうやったって無駄だと思ったのは、まちがいない……それが、いつわらざる心境というのか、最初にこれを見たときの私の第一感でした。

 これをできるだけ、ひどく扱って、ひどい処理の仕方をする……これが、戦略としてまちがっていた。

 ええ、認めます。認めざるをえませんよ、こうなってしまっては。

 私じしんはともかく、人様に迷惑をかける形になっちゃったんで……。

 最後にどうしたかというと、私はあれを、燃やせるゴミとして出したんです。ゴミ捨て場に。

 私の家から、ちょうど通りをはさんで向かい側にゴミ捨て場がありますから、収集にくるのを待って、見届けようとしたんですよね。

 先日あなたにお見せしたように、お寺さんが封印した桐の箱に入ってましたが、若干大きい木箱があったんで、それにおさめましてね、市指定のゴミ袋に入れて出したんですよ。

 はい、ひどい扱いをしてやるってことで、他のゴミもいっしょですよ。

 ところが、業者が収集にきたら……バッテンシールを貼って、置いていったんです。分別がまちがっています、っていう、あのシールです。

 モノとしては、木の箱に藁、ですよ。

 他のゴミにしたって、燃やせるゴミばかりです。

 私、業者のやつ、何を見てやがるって、ゴミ捨て場に行ってみたんです。

 私が出した袋は無事収集されたんであって、見間違えたんだ、他の人のゴミが残されたんだ……そんな期待もしてたんですけどね。

 でも、見てみたら私の出したゴミ袋だった。

 しかも、なぜかステンのパイプが入っている。

 いや、絶対私はそんなものを入れていません。私がその日の朝に出したんですから、出したとき、そんなのが入っていなかったのは断言できます。

 私がゴミ袋を置いてから、誰かがネットをとって、そのゴミ袋にパイプを入れたか。

 私の頭がおかしくなっていて、知らないうちにどのタイミングかでパイプを入れたか。

 この藁人形がパイプを引き寄せて、収集できないようにしたか……いや、あなたそれは……怪談の読みすぎでしょうよ。案外、そうなのかもしれませんが。

 それからパイプをとりましてね、次の燃やせるゴミの日に出したんですよ。あくまでこの方法でやるんだ、って、今から思えばやっぱり何かに憑かれてたのかもしれません。

 それで私は、家の窓から収集するのを見ていた。

 だいたいどのへんにじぶんのゴミを置いたか、わかりますから……ゴミ収集車がきて、作業の人が降りてきて、ネットをとり、ゴミをどんどん放り込んで……そんな様子を、いちぶしじゅう、見ていました。

 私が出したゴミ袋も、無事に収集車に放り込まれて……ああ、成功だ、よかった。

 こうするのがよかったんだって、思った瞬間ですよ……爆発したんです。

 ええ、爆発。パーン、と……。

 えってなって……収集車はもう動きだしていましたし、私はもう、窓から離れようとしていたんです。

 見ると、収集車の後部が燃えています。

 少し前に、ちょくちょく見かけましたよね。ガスを抜いていなかったスプレー缶が、ゴミとして収集されたときに、爆発することがあるって。テレビでね。

 ぱっと見たところは、そんな感じでした。

 でも、記憶は定かじゃないですが、スプレー缶の爆発とは、音が違っていたようなんです。

 私が聞いたのは、何かをアスファルトに叩きつけたような、乾いた音でした。

 よく、飛び降りした人が地面に叩きつけられたとき、そんな音がするっていうでしょう?

 そんな音でした。

 それから……うん、それからねえ……。

 まあ、あまり私の周辺も、いい状況じゃないんですよ。

 お恥ずかしい話なんですが、息子が心中未遂を起こしましてね。

 未遂は息子の方だったんですが、お相手が人妻でして、亡くなったんです。今日もこれから、その後始末に行ってこなきゃなりません。

 いや、まあ……そうなんでしょう。

 これは、子供に影響が出るもんなんでしょう。

 私はやっぱり、この藁人形をモノとして見ることができなかった……それが敗因です。修行不足だったんですね。

 ああ、藁人形はもう、物質としては存在しません。

 それがよかったのか、悪かったかはわかりませんが、もう他のゴミと一緒に処分されたか、爆発騒ぎのときに燃え尽きたかでしょう。その瞬間までは、さすがに見届けていませんけれども。

 でもね、ステンのパイプの方が残ってるんです。

 見たところ、新しいようだし、サビも汚れもないんですが……これを置いておくと、悪いような気がしてならないんです。

 五十センチくらいですかね。いったい、どこから来たんですかね……何の一部だったんですかね。

 燃やせないゴミで出すのはどうも……私には、これに藁人形の魂が移ったように思えますんで。

 同じ失敗はしたくないんです。

 じゃあそろそろ出かけますんで……今日はまず警察に行ってから、病院へお見舞いに行きます。はい、息子の後始末なんですよ。

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