憤然として、颯太は立ち上がると、オールが船底にないかと、くまなく探す。
舟のへりや、外にはないかと、触ってみたり、万が一、舟に引っかかっては
いないかと…探し始めた。
「ないねぇ~もしかして、どこかに落ちたのかなぁ」
さして慌てた様子もなく、のんびりとした声で言う裕太に、颯太は少し
イラッとしてきた。
「どうしてそんなに…のんびりしてられるんだよぉ」
吠えるようにして、颯太が言うと
「だってもう、流れちゃっているしぃ」
相も変わらず、淡々とした表情で、裕太が言うと、周りを見回す。
その時、颯太はあることに気付く…
「さっき乗るときに…流されたんじゃないの?」と。
こうしている間にも、舟はドンドン波に押されるようにして、先ほどの
海岸から、どんどん遠ざかっていく…
「うわぁ~どうするんだよぉ」
髪をかきむしり、なんとかならないか…と、一生懸命、手で海水を
かき混ぜる…
「大丈夫だ!いざという時には、飛び降りればいいんだし」
あくまでものんきな裕太だ…
颯太とは、対照的な2人だ。
それもそのはず…裕太は泳ぎに自信があるのだ。
少しぐらいは、なんなく泳げるはず。
淡々として見ていると…しゃべっている間にも、舟がどんどん
遠ざかっているようだ。
いざという時には、少しぐらい、泳げばどうにかなる…
と、裕太自身も、思っているので…
今の状況を、面白がっているのにまちがいない、と颯太は睨んでいるのだが…
それに反して、颯太は泳ぎには自信がない。
なので余計に、「どうしよう…」とあわてるのだ。
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