リュックサックの中には、懐中電灯と、お弁当と、水筒と…そして
この前の花火の残りと、サバイバルナイフが入っている。
「そういえば…仙人からもらった笛が、あったなぁ」
思い出したように颯太が言うと、
「バットでも持って行く?」
まだ裕太が、目をグリグリさせて、ふざけた口調で言うので、
「好きに言ってろ」
颯太は軽くスルーした。
「ケガするようなマネだけは、止めてくれ。
オバサンが悲しむ」
冷ややかな目を向けると、裕太ははぁ~とため息をつき、
「ちぇっ、いいアイディアだと思ったのになぁ」
未練がましそうに、それでも何かいいものがなうだろうか…と、
裕太は玄関の中を物色し始めた。
「行ってきます」
いつものように、裕太と颯太は家を出た。
母さんが洗濯物を干している間に、リュックサックを背負う。
すっかり颯太も、この家になれたようで、ヒモを結んだままの
スニーカーに足を突っ込むと、黙って裕太に続く。
すっかりなじんだ自転車を押して、門を抜けると、
「で、まずはどこへ行くんだ?」と、颯太は裕太を振り返る。
「それはもちろん、あそこだ!」
ハンドルをギュッと握りしめると、裕太は元気よく返事をする。
「あそこって、どこ?」
「海岸だ!」
「えっ、あそこ?」
想像と違う答えが返ってきたので、颯太は戸惑う。
「やっぱり…船に乗るの?」
キョトンとして聞くので、
「なに言ってんだよ」と裕太は笑う。
「だってさ!」
当たり前のことを聞くなとばかりに、裕太は颯太を見返すと、
「仙人との連絡方法が、わかんないからな」
しょうがないだろ?という顔で、平然と裕太が答えると、
「確かにそうだな」
ようやく颯太も、納得したようだ。
「よし、出発進行~!」
裕太は勢いよく、声を張り上げた。