信子はふいに我に返り

「また今度、来ましょ」とつぶやくと、クルリと回れ右をする。

(一体、ここはなに?)

気になるけれど…また、あのトンネルを探してみたい、とふと思った。

 

 トートバッグをキュッと握りなおすと、また雑草を踏みしめて、いつもの道へと向かう。

これまでこの辺りを通ったことがあったけれど、この空き地のことは、今まで

気づかなかった。

 あれ?

 本当に、こんなトコ、あったの?と思うけれど…

また後でカスミさんに聞いてみよう、と思う。

 今晩のおかずは、何にしよう?

 そうだ、ジュンヤに手紙を書こう。

ふと思い立った。

実は先日、久しぶりに会った時に、連絡先を交換したのだ。

もっとも自分は、携帯を持っていないので

連絡先とはいっても、カスミさんのこの住所を言ったのだ。

だけど今度は…これでなにかあっても、会うことが出来る…と

少し安心する。

(まずは、便せんを買おう)

ようやく今日の目的を決める。

することが決まると、なんだかそれだけで、信子は自分の居場所を見つけた

ような気がする。

 今の自分は、居場所もなく(居候の身分だ)

かといって、行くあてもなく、

さらには今後の目標もない。

それがとても、心もとなかったのだ。

 だけど!と信子は気を取り直す。

(ちょっとずつ、何かを見つけよう!

 目的を探すんだ!)

そう心に決めた。

 

 ふと弟の顔を思い出す。

「お母さんとは、うまくやってるよ」と微笑んだジュンヤ。

あの満ち足りた顔は、たとえ自分がいなくても、十分大丈夫なのだ…と、

しみじみと心に染み入るのだった。

よかった、という安心感と、

それからほんのわずかな寂しさが、こみ上げて来る…

もう自分のことが、必要とされてはいないのだ、と思い知らされるようで。

だが逆に、これからは 自分のために生きよう…と心に誓う。

そう思うと、何だか体が軽くなるのを感じた。

 


 

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