「ね…誰か、いる!」

 小声で裕太にささやくと…足元に落ちていた自転車のハンドルを拾い上げ、

まるでバットのように握り締めると、ジュンペイはゆっくりと、音の方へと向かっていく…

人の気配は、ほとんど感じられないのだが…

「野良猫か、犬なんじゃあないの?」

不穏な空気を放つジュンペイに、裕太はオドオドしながら声をかけると、

「いや、ちがうね!」

確信を持っているように、ジュンペイはキッパリと言い切る。

さらにはまるで犬のように、くんくんと何かをかぎ分ける仕草をして、

辺りのにおいをかいでいる…

一体、どうしたんだ、と裕太が見守るのだが、どうも裕太には

ゴミを焼くニオイしかしていないのだ。

ジュンペイは「チェッ」と小さくつぶやいた。

 

「ほら、魚のにおいか何か、かぎつけて…

 残飯あさりに、ネコが来てるんだよ!」

ふいに思いついたように、裕太が言うけれど…ジュンペイはそれを無視して、

慎重に、足音をたてないようにして、奥へと進んで行く。

 そぅっと建物の陰から、頭をのぞかせて、その奥をのぞき込もうとする。

確かに…そのあたりには、何かがいるようで、時折ガサガサと物音を立てた。

どうやら、何かを探しているようだ…

「ねぇ~ドロボーなんじゃない?」

ささやくように、裕太が言うと、ジュンペイのシャツのすそを、ギュッと引っ張った。

「ねぇ、オジサンが戻るまで…待っていようよ」

先ほどから、どうにかしてジュンペイを止めようとするのだが、

そんな裕太を、軽蔑するような目で、ジュンペイが見ると

「おまえ…ほんっとに、臆病者なんだなぁ」

呆れたように言い放つ。

そんなこと、ないもん!

そう思うのだが…確かに自分の手のひらに、びっしょりと汗をかいているので…

まるで説得力がないな、と裕太はうなだれた。

 

 

 

 

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