カーンコーン、カンコーン、カンコーン

 すっかり夢中になって、踊っていると…ついにどこかでまた、12時の鐘が鳴り始める…

(えっ、もう時間?)

さあ、大変!

うまうまと王子の誘いに乗っかっていたエラは、一気に夢からさめて、正気に戻る。

帰らなきゃ、残念だけど…と、気持ちを切り替えた。

 

  連日連夜 にぎやかに行われたパーティーも、いよいよ終盤!

やはり現実に戻りたくない人たちが、未だ熱に浮かされたように、

笑いさざめき、シャンパンのグラスを酌み交わしながら、夜があけるのを惜しむように歌い踊る…

だけどまだ、その熱が一向に収まる気配もなく、王子もこの時ばかりは、エラの手を離そうとはしない…

 部屋の隅では、デップリと太った紳士が、チラリと隣に立つ、若い女性の背中の

パックリあいたドレスを盗み見て…

「踊りませんか?」とデレデレしたにやけた顔で、彼女を誘う。

その女性はチラリと男性を見ると、

「はっ?」と冷たい表情を浮かべ、

「けっこうよ!」と言い放つと…

はるかかなたで踊っている、イケメンに熱い視線を向けるのだった。

ガン無視された紳士は、ガッカリするけれど、果敢にも他の女性に声をかける。

そこでもまた、断られ、再度チャレンジするのだった。

彼女の想い人…プリンスは、どこの馬の骨だかわからぬ女と、つけいるスキも与えず、

嬉しそうに鼻の下を伸ばしきって、華麗なステップで踊っている。

「ねぇ、あの女、いつまで王子様を独占するの?」

悔しそうに、隣に立つ友人に話しかける。

 まぁもっとも、かくいう彼女も、王子様目当て。

普段は恋のライバル同士だけども、今回ばかりは同じ思いのようで…

ため息を漏らし合うのだった。

今回ばかりは、同じ目的を持つ、同志なのだ。

このどこの誰ともわからぬ、でしゃばりな女の魔の手から、我がプリンスを守り、奪還するぞ、と

1日限りの戦線協定をもくろんだのだった。

 

 そんな事態とは露知らず…

王子は、この世にもまれな、可憐な美女に向かい

「あぁ、あなたのお名前は?」と耳元にささやく。

懲りんやっちゃ、と思いつつも、エラはにこやかに微笑んでいたけれど、

「あの…あの音は?」

どうにか気をそらそうと画策し、さり気なく聞いた。

 

 


 

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