一方エラはといえば、12時の鐘が鳴り終わるまでに、帰らないといけないのだ。

さもないと、どうなるのか、わからない…

こうしている間にも、時の鐘が無情にも鳴り響き…

一瞬のすきを見つけて、王子の手から小鳥のようにすり抜けると、

一目散に走りだす。

ボールルームを走り抜け…

「まぁ、なにごと?」

「下々のように…はしたない!」

それでも気にせずに、彼女が走り抜けるたびに、踊っている人々が、ドミノのようにぶつかり合い、

「何をするんだ」

「よく見て通れ!」

怒鳴り合い、喧騒が沸き起こる。

だがそこで…引っ込む思案の女の子が、目当ての男性と話が出来た…というおまけが

あったとか、ないとか。

 またはこの騒ぎに、呆気にとられる侯爵夫人。

「まぁ、なんですか?危ないですこと!最近の若い人は…」

連れの女性に、声高に言いつのる。

さらにあやうく、胸にぶつかりそうになったドンファンの場合は…

「おや、嬉しいハプニングですな!

 おーい、そこのお嬢さん!

 そんなにあわてて、どうしたのですか?」

この状況を面白がり、どさくさまぎれに、腕に引き寄せようとしてみたり。

 

(あぁ、なんて、面倒なんでしょう!

 どいてよ、どいて!)

男性の手を振り切ると、さらにスピードを上げて、走り続ける。

息は上がり、髪はほつれ、靴も脱げそうになるけれど…

心臓が壊れるくらいに、足を動かす。

もしも彼女が、現代にタイムスリップしたとしたら…

間違いなく、オリンピックで金メダルが狙えるかもしれない…

(今年はオリンピックはないのだけどね!)

ヒョイヒョイとすり抜けて、エラはまるでつむじ風のよう。

「まぁ」とか、

「なによ、あの子!」とか、彼女の通りすぎた後には、抗議の声が沸き起こる。

その後を追いかける王子にとっては…

探すまでもなく、おそらくどこにいるのか、一目瞭然だっただろう。

そうしてどうにか人々をかき分けて、入り口にまで到達すると

「その女、止めて!」

「なに、スリなのか?」

などと叫ばれたりする…

もちろん王子も例外ではなく、

「待ってください」と追いかける。

「ごめんなさい!」

立ち止まるわけにはいかず、ひと言叫ぶと、なおも走り続ける。

 

 12時の鐘は、その間も鳴り響き…汗まみれ、髪もほぐれ、しとやかさのかけらもなく、

息もすっかり上がった頃…ようやく城の吊り橋にまでたどり着いた。

そうして橋の側には、魔法使いのおばあさんが出してくれた、

かぼちゃの馬車が、エラの到着を、今か今かと待ち構えていたのだった。

 

 

 


 

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