「あの女性…何者だったのですか?」

 王子の側近が近付いて来て聞く。

「さぁ?」

やはり相手は生きている人間だ。

思い通りに事が運ぶわけもなく…花嫁奪還作戦は失敗に終わった。

落ち込む王子は、謎の姫が消えた階段で、呆然と立ちすくんだ。

 ふいに階段に、光る物を見つけ、無言でしゃがみ込む…

そこにキラリと光るものは…主を失った、ガラスの小さな靴だった。

その靴を拾い上げ、呆けたように王子はぼぅっとした…

 

 追いかければいいのだけれど、王子はその辺の若者のように、走り回ったりするのは

苦手なのだ。乗馬は得意だけれども。

それでも透明のその靴を、そぅっと指で撫でて、

(あの人は、本当にいたのだろうか…)と思う。

もしかしたら、いたずら好きな妖精だったのか?

それとも…王子につかの間見せた、幻だったのか?

王子はまだ、夢見心地の顔で微笑むと

「彼女は、足に羽が生えたように、軽やかなステップで踊っていたなぁ」

しみじみと思い出して、かみしめるように言った。

 するとご学友の男が

「そのまま、飛んで行ってしまいましたね」

からかうように言うと、王子は少し悲しそうな顔をした。

ゴホン…

側近の1人が、取り繕うように、咳ばらいをすると

「ずいぶん…逃げ足の速いお姫様で」

と困ったように言う。

「そんなことは…」と言いつつも、王子はあわててかばうように

「おそらく極度の人見知りなのだろう」

そうであって欲しい…とそう自分に言い聞かせた。

「人見知りにも、ほどがあります」

だがその男は、アッサリと言い返す。

「深窓の令嬢というものは、恥ずかしがり、というものだ」

むりやりそう納得させようと、王子は願いを込めて言う。

だけどもそれは、ちょっと無理があるのか、

「その割りに…案外あっさりと、ダンスのお相手をしてくれたものだ」

意地悪く、世間知らずの王子のことをからかうように、そう言い返した。

すると王子は胸を張って

「それはもちろん」

自信満々な様子で、王子はきっぱりと言う。

「女というものは、みんな、王子を好きになるものだ」

堂々とそう言い切った。

 


 

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