「それがなぁ~ちょっと困ったことになって」
何の苦も無く近付くと、じいちゃんはヒョィッとバケツの中をのぞき込む。
「ほぉ~もうそんなに、釣れたのか。さすがだな」
のけぞるようなポーズをして、じいちゃんが言うと、オジサンもまんざらではないのか、
「あぁ、今日はついてる」
すっかりじいちゃんのペースにのせられて、機嫌よくうなづいた。
そのまんまのテンションで、チラリと裕太の方を見ると
「ところで、その…頼まれごとって、なんだ?
こっちもこう見えて…忙しいんだ」
珍しく軽い口調で、オジサンが言うも、じいちゃんはさらに鷹揚な顔をして
「あぁ、大したことではないんだ」
まったくどうってことない、という風に言うけれど…裕太はそうか、と疑っている。
じいちゃんの本当の性格が、わからない…
平然とした姿を見ると、裕太はそう思う。
それでもせっせと岩を踏みしめて、裕太はそれでもじいちゃんの後を追いかける。
当のじいちゃんはというと、ズカズカと相手の側に近付くと、なれなれしく
話しかけている。
(じいちゃんって、いつも、こんな感じなのかなぁ)
ちょっと驚く裕太だ。
「ホント、忙しいトコ、悪いねぇ」
口ではそう言うけれど、本当はあまり悪いとは思っていないのでは、という口ぶりだ。
こんな風にして、いつも人の懐に入り込むのだろうか…と裕太は戸惑っていた。
「まぁ、洋平さんには、かなわないなぁ~」
ついにオジサンが苦笑いを浮かべる。
するとテキパキと釣り竿を引き上げると、片付け始めた。
「ホント、悪いなぁ」
またもじいちゃんはそう言うけれど、申し訳なさそうには見えない。
(じいちゃん、ずいぶん強気だなぁ)
本来ならば、お店の方に置いて来てくれ、と言われそうなものなのに、
「どれどれ?」
むしろ楽しそうに近付いて来た。
あのオジサンが、じいちゃんの言うことには素直に聞くなんて!
ひょぃっと腰軽く、岩を乗り越えて来るので、
じいちゃんは大したもんだなぁ~と、逆に裕太が驚く。
あの一癖も、フタ癖もありそうなオジサンが、すっかりじいちゃんの言うことに、
素直に従っている…
じいちゃんは、ホント、すごいなぁ~
このことが、裕太には新鮮に映った。