シュウヘイはエラにとっては、恩人だ。
元の世界から、この世界に弾き飛ばされた時に、初めて出会った人なのだ。
その時はどこにでもいるような、ごくごく普通の好青年のように見えたのだ。
だが今日のシュウヘイは、いつもと違って、よく見かける酔っぱらった男の人の目をしていた。
エラは田舎に住む、世間知らずの女の子だったので、そういう男性には
慣れていないのだ。
だから近付くシュウヘイから、少し距離を取るように、体を離して
「何って別に…カスミさんの家で、ご飯とか作ってる…」
消え入りそうなくらい、小さな声で言うと、シュウヘイはニヤリと笑う。
「エミってさぁ~こうやって見ると、結構可愛い顔を、しているねぇ」
からかうようなまなざしで、エラを見た。
まぶたを赤くして、少しトロンとした目で、いつもとは違う顔…
思いがけず、今まで言われたこともないことを言うので、
なんだかエラは困ってしまう。
どういう反応を見せていいのやら…
喜んでいいのか、無視をすればいいのか…
困った顔をするけれど、ふいに思い付き
「ここって、前に来たこと、あるよねぇ?」
何だかきまり悪く、とりあえずこの気まずい空気を、どうにかしたい…
と初めて思った。
「この前、初めて出会ったのも、この辺よね?」
さらに重ねて言うと…シュウヘイは何か引っかかるのか、
「そう…だったのかな?うん…そうだね」
そんなことは、どうでもいい…という顔で、シュウヘイはそれでも、じぃっとエラの目を
見つめ、それからエラの全身を遠慮なしに、ジロジロ見た。
(一体、どうしたのだろう…)
初めて見せるシュウヘイの一面に、エラは戸惑いを隠せぬままに、シュウヘイを
見返した。