エラはこれでも、十分がんばっている、と思うのだが…
それでもシュウヘイもカスミも、一様に、エラにはまだ社会生活が無理なのでは、
と心配している。
これにはエラとしては、少し複雑な気分だ。
「私って、そんなに頼りないかなぁ?」
少し寂しく思う…
ボソリと言うと、シュウヘイもカスミも顔を見合わせて、
「そうじゃないけど、まだ…ね」
曖昧に言うのだが、今一つ説得力に欠けている。
「大丈夫よ」
そう言うエラの言葉は、2人の耳には、届かないようだ。
大家さんは一体、何を考えているのだろう…
シュウヘイもカスミも不思議そうに見ているのだが、エラはそれでもようやく
1人前として扱ってもらえる…と、少し張り切っていた。
2人は強くは言わないけれど、内心まだ、心配しているようだ。
「ま、なんでも経験だよなぁ。すればいいじゃないか」
気にしていないよ、という顔をして。
エラの様子を見たシュウヘイが、思いがけずうなづく。
「このまんま、ボーッとしていても、エミちゃんの記憶は戻らないかも
しれないし…戻るかもしれない。
色々やった方がいいかもしれない。
もしかしたらそれが、いい刺激になるかもしれない」
そう言うと、遠慮がちにエラを見た。
なんということだろう!
すっかりエラが、記憶喪失だと思っているようだ。
だが残念ながら、記憶喪失ではない。
ただ単に迷子になっているのだが…
それでもエラは、シュウヘイの言葉を否定はしない。
カスミも大きくうなづく。
「そうね!大家さんもいるし、私たちもチョコチョコ様子を見に来れば
大丈夫よね?」
もうすっかり、エラの保護者の気分になっているようだ。
エラはまだ、複雑な気分だけれど、それでもこうして心配してもらえるので、
とてもありがたい気持ちでいっぱいになった。