年賀状の投函に行ったポストで

郵便ポスト

 昨年の、年の瀬も押しつまった12月30日のことである。
 すぐ音をあげたがる腰の骨をなだめすかしながら、何とか年賀状を書き上げた。冒頭の画像にあるような文字を書き添えてね。
 それから、空気のとおり道は確保しながらほとんど首がまわらないくらいマフラーを首に巻きつけて、投函に出かけた。
 お天気は良いが、顔に当たる空気は冷たい。通りに行き交う人びとはみんな厚着をしてダルマ然。下から出た足だけはセカセカ動いている。口から出る息がほのかに白い。

 わが家から5分ほど歩いたところに、道端に郵便ポストがある。一本足の上に、忘年会の酒で赤くなったような四角いデカい顔をのせたヤツだ。

 ポストの前には列ができていた。老人ばかり4,5人ほどいただろうか。
 どうせ時間はあるんだから早めにやっておけばいいのに、みんなわし同様、ぎりぎりまで先延ばししてから書いたにちがいない。以前に比べればだいぶ数は少ないのだろうが、それでもかなりの枚数の賀状を手にしている。

 わしの順番にくるまでけっこう時間がかかった。
 はがきを投入口へ放りこむだけなのに、なにをモタモタしてるんだ、年寄りはこれだから困る・・・などと自分のことはタナにあげて腹の中でブーたれていたけれど、自分の番になって分かった。昨年までにはなかった新しいものがポストに取り付けられていたのだ。

 投入口の下に、A5版のノートくらいの大きさのビニール袋がぶら下げてあった。「年賀はがき用輪ゴム在中」と赤文字で大きく書いてある。その下には、小さめの黒文字で「年賀状は輪ゴムでまとめて投函してください。輪ゴムは袋の中のものをご利用下さい」とあって、ビニール袋のなかには輪ゴムが入れてある。

 全国的に実施された最先端技術なのか、当地だけのローカルなものなのかは知らないが、そうした方が向こうサンには作業の際なにか都合のいいことがあるのだろう。

 それくらい協力してやってもいいよと、ビニール袋のなかの輪ゴムを取り出そうとしたのだが、どこに開け口があるのか分からない。それらしいところを開けようとするのだが、開かない。顔を近づけて改めて開け口を探すが、見つからないい。

 わしの前に並んでいた連中も、モタモタしていたのは老化のせいばかりではなくこれが原因だなと気づいたが、だからといって自分のモタモタが解消するわけではない。後ろには早くもまた何人か並んでいる。

 だんだんイライラしてきた。もう日本郵便株式会社に協力するのはやめだ、バラのまま放りこもうと思ったとき、後ろから肩を叩かれた。
 ふり返るとほぼわしと同年配の爺さんが、「はがきを入れるのはそこではなくて、その上にある投入口ですよ」と哀れむような目をして言った。

 わしはムカッとしたね。この爺さんは、わしがビニール袋の中へ賀状をねじ込もうとしていると思ったらしい。
 アホ。わしだってそこまではボケてないワイ。
 ・・・と言ってやりたかったが、そこはまあお互いいい年をしているので抑えて、事情を説明した。すると相手の爺さんは意味がわからなかったらしくて、ポカンとしている。

 するともう一つ後ろに並んでいた若い(といっても60歳前後の)男が近づいてきて、やはり不機嫌そうな声を出した。
「その袋の口をあけるには、ちょっとコツがいるんですよ」
 そう言ってわしを押しのけるようにして前に出ると、輪ゴムの入ったビニール袋をちょこちょこといじったら、ちゃんと口が開いた。中から1本取り出してわしに渡すと、やはりぶすっとしたまま後ろへ下がった。

 わしは丁重に礼を言ったが、目で横柄にうなづいただけでニコリともしなかった。おそらく彼は前にも投函に来ていて、袋の開け方に “習熟” していたらしい。だからよけい、さっきのわしのモタぶりにイライラしたのだろう。これだから老人は困る、ったく年は取りたくねえよな・・・なんてね。

 そんな気配が全身からプンプン臭っていたから、わしは面白くなかった。さっき、まったく同じことを自分も腹のなかで思っていたくせに。

 帰りながらわしはそのムシャクシャを他へ責任転嫁した。
 日本郵便は今は民間企業だが、10年ほど前までは国の事業だった。そのお役人根性がいまだに抜けてない。自分の都合だけを考えて、相手の身になってモノを考えるということをしない。さっきの輪ゴム入れのビニール袋も、その一例だ。・・・なんて。

 ま、目くそ鼻くそを笑うのたぐいだわナ。
 ったく、わしもいつまで経っても成熟しないワ。

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