Touché Amoré(トゥーシェ・アモーレ)
『Dead Horse X(デッド・ホースX)』

ロサンゼルス出身の激情エモ・バンドの19年に発表した5作目。彼らといえば、スクリーモがメタルの一ジャンルとして形骸化する前の、激情なサウンドを現代風にアレンジし、よみがえらせたバンドだ。

 

今回、デビュー作である『…To the Beat of a Dead Horse(..トゥ・ザ・ビート・オブ・ア・デッド・ホース)』を、バンド結成10周年を記念して、新たに録り直した。本来リマスター盤を発売する予定だったそうだが、再度録り直した理由は、マスターテープを紛失してしまったため。しかたなく録り直しに踏み切ったそうだ。

 

デビュー作である『..トゥ・ザ・ビート・オブ・ア・デッド・ホース』は、エモーショナル・ハードコアのように太く荒々しいギターとメロディーが絡むサウンドであった。豪胆さと血が噴き出るような全力の絶叫(スクリーミング)が印象的だ。メロディーに繊細さこそ感じるが、エモーショナル・ハードコアにある、うじうじしたナイーヴな感情が一切ない。疑問の問いかけのような絶叫であった。

 

再度録り直した今作では、音の厚みと迫力が増している。自らのサウンドスタイルを確立した『Is Survived By(イズ・サヴァイヴェット・バイ)』以降のメロディックな要素を取り入れ、ブラッシュアップした作品に仕上がっている。青春の煩悶のような衝動的でパワフルなサウンドであることに変わりはない。とくに変わった部分はメロディーフレーズ。揺らめく炎のように繊細で妖艶なメロディック・サウンドには、パワフルさの奥に潜む不安や混乱などの感情を感じる。

 

『..トゥ・ザ・ビート・オブ・ア・デッド・ホース』は、エモーショナル・ハードコアの影響が濃く、オリジナルティーを獲得する前の作品で、勢いと衝動の若さゆえの粗削りさが魅力であった。よりメロディックにブラッシュアップしたことによって、『..トゥ・ザ・ビート・オブ・ア・デッド・ホース』のよさが失われず、むしろ心の奥に潜む深い感情を獲得している。再度、録り直して正解だったといえる、粗削りな未熟さが解消されたいいアルバムだ。