ロック探偵のMY GENERATION

ミステリー作家(?)が、作品の内容や活動を紹介。
『ホテル・カリフォルニアの殺人』(宝島社文庫)発売中です!

江戸川乱歩、土師清二、長谷川伸、小酒井不木、国枝史郎『空中紳士』

2020-11-23 18:13:36 | 小説




江戸川乱歩の『空中紳士』という作品を読みました。

――厳密にいえば、アマゾンミュージックの朗読で聴きました。

以前紹介したとおり、アマゾンミュージックには小説の朗読作品があり、なぜか江戸川乱歩の作品しかないというおそろしく偏ったラインナップになっているわけですが……そのなかに『空中紳士』も入っていたわけです。

しかしこれ、乱歩作品というにはちょっと注釈が必要です。
というのも、本作『空中紳士』は、乱歩を含めた複数の作家たちによる合作小説なのです。

土師清二、長谷川伸、小酒井不木、国枝史郎、そして江戸川乱歩。
この五人によって結成された同人「耽綺社」によって、雑誌『新青年』に連載されました。

その乱歩以外の人たちについては、不勉強で、小酒井不木以外は正直名前も聞いたことがないんですが……どうもミステリー系の作家ではない人が多いようです。

そういう事情があるので、読んでいるといささか乱歩らしくないような部分も見受けられます。
そもそも『空中紳士』というタイトルからしてあまり乱歩作品らしくないと感じるのは私だけでしょうか。そして、東欧の架空の国の人物がからんでくるところなども、乱歩の作品としてはやや違和感があります。
これはなにも、合作であるということからくる先入観によるのではありません。
私ははじめこれが合作小説であるということを知らずに聴き始めたんですが、先述したような違和感はその時点からあり、後で合作小説だということを知って納得がいったという次第なのです。
文章自体はほとんど乱歩の筆によるものらしいですが、土台となるアイディアや設定、人物造形といったところに、他の参加者の着想が相当ふくまれているということなのでしょう。それが、乱歩作品とはまた一味違ったテイストにつながっているのだと思われます。

しかしやはり、乱歩一流の怪奇・伝奇・猟奇趣味もしっかりいかされています。

私がもっともこの作品で心惹かれたのは、タイトルになっている「空中紳士」という言葉の意味です。
これは、物語の最後になるまで明かされません。ネタバレになってしまうので書けないのがつらいところですが……それだけで、冒険小説が一本書ける、書きたくなる、そんな素晴らしい発想だと思いました。そのアイディアに基づく小道具というのは、作品のなかで実際に出てくることはほとんど皆無なのですが、想像するだけでわくわくする、まるで子どもの夢のようなのです。
これが乱歩のアイディアなのかはわかりませんが……そういう科学小説的な発想はこの作品の随所に顔をのぞかせていて、そこもなかなか興味深く読めました。
科学は、そもそも“子どもの夢”のような空想を出発点にしている。その“わくわく”こそが、科学を発展させる。この感覚は、ひょっとしたら少年探偵団なんかにもつながっているのかもしれません。
そういった点で、いつもの江戸川乱歩とはまた一味違う、傑作ミステリーでした。







最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。