#266 お伽噺に隠された人生訓 ~「桃太郎」~ | 鑑賞歴50年オトコの「落語のすゝめ」

鑑賞歴50年オトコの「落語のすゝめ」

1956年に落語に出逢い、鑑賞歴50余年。聴けばきくほど奥深く、雑学豊かに、ネタ広がる。落語とともに歩んだ人生を振り返ると共に、子や孫達、若い世代、そして落語初心者と仰る方々に是非とも落語の魅力を伝えたいと願っている。

 

「おい、金坊、もう遅いから布団を敷いて早く寝ろ」「いやだ、眠くないもん」「布団に入れば眠くなる。遅くまで起きているとお化けが出るぞ」「いやだ、怖い」「だったら早く寝ろ」「うん」。金坊は父親の命令に従って布団に入る。「よしよし、いい子だ。ご褒美に父さんが面白い話をしてやろう」

(ここで父さんは添い寝をしてお伽話の「桃太郎」を話して聞かせる)

「どうだ、面白いだろう?金坊、おい、金坊、なんだ寝ちまったのかい? 母さん、もう寝たよ、子供は罪がねえなァ」といったのは昔の話。今の子はそうはいきません。

 

「おい、ロッキー、もう遅いから布団を敷いて早く寝ろ」「いやだ、眠くないもん」「布団に入れば眠くなる。遅くまで起きているとお化けが出るぞ」「そんなもん怖くない。今どきお化けなんていないよ」「子供は眠たくなくても早く寝るもんだ」「僕が早く寝ないと何か都合の悪いことでもあるの?」「…余計なことを言わずに早く寝ろ。父さんを何だと思っているんだ?」「別に」。ロッキーは嫌々布団に入る。

 

「よしよし、いい子だ。ご褒美に父さんが面白い話をしてやろう。昔々」「年号は?」「年号なんてないずっと昔だ。ある所に」「何県?住所は?郵便番号は?」「そんなもんはねえ頃だ。おじいさんとおばあさんがいました」「名前は?」「名前はねえんだ」「そんなことはないよ。日本は大化の改新以来戸籍がしっかりしてるんだよ」「…、一々うるせえな。黙って聞け! 名前はあったけど貧乏で売っちまったんだよ」「へー、貧乏になると名前を売るの、じゃあ、何でうちはまだ名前があるの?」「…、子供は一々質問せず“ふーん”と言って聞けばいいんだ」「ふーん」。

 

「おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました」「ふーん」「川上から大きな桃がドンブリコ、ドンブリコと流れて来たのでおばあさんはそれを拾って持ち帰りました」「ふーーん」「桃に包丁を入れると中から男の子が出て来たので“桃太郎”と名付けました」「ふーーん」「うるせえなァ、黙って聞け!」。

「“桃太郎”は大きくなって鬼ヶ島へ鬼退治に行きたいと言うのでおじいさんとおばあさんは美味しい黍団子を持たせて旅立たせました。道中で犬と猿と雉が黍団子をくれたらお供をしますと言って寄って来たので黍団子をやって家来にし、一緒に鬼ヶ島へ乗り込みました。全員力を合せて鬼を退治し、金銀財宝を持ち帰っておじいさんとおばあさんを喜ばせました。めでたし、めでたし。どうだ、ロッキー、面白いだろう。ロッキー、あれ?まだ起きてるのかい?」「あまりにも中身のない話でお父さんの教養のなさが気になって返って目が覚めたよ」「ど、どういうことだ?」。

 

「これ、“桃太郎”という有名な昔話でしょう? 実はこの話には深い意味が隠されているの」「へえー、どういうことだ?」「時代や場所はわざと特定してないの。聞く者の誰もが身近に感じてもらう為だよ。両親でなく爺婆にしているのは年寄りはいつまでも大事にして付き合いなさいという意味が含まれているの。で、山と川が出て来るでしょう。“父の恩は山よりも高く、母の恩は海よりも深い”と言うでしょう。ここに父母を登場させているの。海では洗濯が出来ないので川にしているの」「へえー、そんな意味があるのかい?それで?」。

 

「桃から子供が産まれるわけはないでしょう。あれは実は捨て子だったの。でも捨て子というと聞いてる子供が自分も捨てられるのではないかと恐怖を感じるので桃から産まれたということにしてるの。現実は厳しくて捨て子も多いんだよ、お父さん、大丈夫? 家族、養って行ける?」「そう、それが心配で、お前に相談しようと思っていたんだ」。

 

「それから鬼ヶ島という島なんて何処にもないの。あれは苦労することの多い世間のことなの。“渡る世間に鬼はない”というのは嘘で世間には鬼が一杯いるんだよ。つまり桃太郎は荒波に向かって修行に出たいと言ったわけだよ」「おい、母さん、テレビのサスペンス・ドラマばっかり観ていないでロッキーの話を聞け! 為になるぞ。で、それから?」。

 

「犬は仁義、猿は智恵、雉は勇気を表しているの。つまり桃太郎はこの仁・智・勇の3つを身に付けたということなの。そして黍団子は決して美味しいもんじゃあないの、贅沢はよくないということが言いたいわけなの。それから金銀財宝だけど、略奪してきたように聞こえるけどそうではなく、世間の荒波に打ち勝って一人前になったご褒美として世間様からもらったので爺婆も喜んだということなの」。

「まとめるとね、お父さん、こうなるの。人間として生まれて来たからには、質素・倹約に努め、祖父母や両親に孝行を尽くし、仁・智・勇を身に付けて世間の荒波を克服して世の中に役立つ人になりなさいということなの。分かる?お父さん、お父さん、あれ、寝てる。大人って罪がねえなァ」。

 

お伽話に隠された人生訓と言える「桃太郎(ももたろう)」という滑稽噺である。隠された人生訓については演者によって少しバリエーションがあるが、上記は六代目三遊亭円窓の高座を中心に書き写したものである。桃太郎伝説は各地に残っていて本家争いをしている感があるが、人生訓が隠されているというのは落語界の創作であろう。

 

 

 

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