#312 魚でなく酒を釣る法 ~「釣りの酒」~ | 鑑賞歴50年オトコの「落語のすゝめ」

鑑賞歴50年オトコの「落語のすゝめ」

1956年に落語に出逢い、鑑賞歴50余年。聴けばきくほど奥深く、雑学豊かに、ネタ広がる。落語とともに歩んだ人生を振り返ると共に、子や孫達、若い世代、そして落語初心者と仰る方々に是非とも落語の魅力を伝えたいと願っている。

 「おい、永くんじゃないか、浮かない顔してどうした?」「このところ、みたいものをみないんだ」「眼でも悪くしたのかい?」「“みたい”の上に“の”を付けるんだ」「“の”?“のみたい” なんだ飲みたいのか。だったら買って飲めばいいじゃないか」「俺、奢ってもらうのが好き」「ケチな野郎だ。よし、タダで酒が飲める所を教えてやる。一丁目の工藤さんを知ってるだろう?」「高校の先生をしてる?」「そうだ、熱烈な釣りキチだから、訪ねて行って釣りの話に巻き込んだらきっと酒が出るよ」「そうか、でも俺は釣りはやったことがないよ」「大丈夫、相槌を打って聴くだけでいいんだよ。但し、相手の興が乗るようにオーバーアクションを見せて真剣に聴いてる態度を見せることが大切だよ。乗らせると酒が出やすくなるからね」「わかった、有難う。早速行ってみるよ」。

 

 「今晩は、中村と申します。ご主人はおられますか?」「はい、在宅でございます」「そうですか、残念だな。(飲み損ねた)、出直します」「いえ、主人はおりますが」「なんだ、おられるんですか、ドイツ語なんか使って。(良かった、これで飲める)」「は?。あなた、中村様がお見えになりましたよ」「中村さん? あの永さんかな?ああ、やっぱりそうだ。よく来てくれました。まあまあお上がり下さい」「今日はお酒をご馳走に…、いえ、釣りのお話を聴きに参りました」「おや?あなたも釣りをやられますか。この前も釣り友達と一晩中語り明かしましたよ、お茶を飲みながら」「えッ!お茶ですか?酒でなくて」「酒がお好きなようですから1本つけますよ。先ずはビールといきますか。おーい、ビールを出しておくれ」「思ったより早かった」「はあ?何か? 私はコップ一杯で顔が真っ赤になる弱い方でして」「私も一杯で真っ赤になり、二杯で心臓がドキドキしますが、三杯目からは何杯でも飲めます」「そうですか、私はあまり飲めませんが遠慮なくやってください」。

 

 「ところで、いつもは何処へ行かれます?」「東京の丸の内です」「いえ、勤め先でなく釣りの場所ですよ。大きな川ですか?」「はい、アマゾン河で」「?? そんなに遠くへ?」「いえ、…あっちこっちの川です」「好きなお魚は?」「刺身です」「?? 竿は何本お持ちですか?」「3本ほど」「大切にされているんでしょうね?」「いえ、いつも物干し台に掛け放しです」「いえ、釣りの竿のことですよ。逃がした魚は大きいと言いますが、ご経験はおありでしょう?」「ええ、この前はメダカを逃がしましてね、鯨に見えましたよ」「??」。話疲れがしてきた永さん、「この辺で釣りの話は止めて歌でも唄いましょう」と都々逸を唄い、ピーナッツの曲食いを披露する。

 

 「失礼ですが、永さんはキス(鱚)のご経験はおありですか?」「それ位は…」「何処で?」「場所は決めていませんが、強いて言えば暗がりで…」「お独りで?」「いえ、家内などと」「ほお、奥様もお好きですか?」「まあ、ほどほどに」「今度、私とやりませんか?」「えッ!先生と?私、そんな趣味はありません」「永さん、口づけと間違えていませんか?魚の鱚ですよ」「なーんだ、魚か。でも先生、間違いではありませんよ」「どうしてです?」「はい、魚にも愛(鮎)もあれば恋(鯉)もあります」。

 

 上記の筋書きは、ピカピカの禿げ頭を看板にしてテレビの全盛期1990年代に石鹸のCM等で人気を博した三代目三遊亭圓右の高座から書き写した「釣りの酒(つりのさけ)」という新作の滑稽噺である。

 

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