百の峰を越えて -南駒ヶ岳-

このお話は、当ブログ「賢者の森」の投稿記事「コスモを感じろ越百山」(2018/08/11)の続きのお話です。中央アルプス(木曽山脈)北部の南端に位置する標高2613m「越百山(こすもやま)」山頂までの旅は、そちらの記事をご覧くださいませ。

越百山から北へ、国土地理院の地図で約3時間の道のりの先にあるのが「南駒ヶ岳(みなみこまがたけ)」という標高2841mの山です。

中央アルプスで高山帯の山々が連なる北部の山域には日本百名山に選定された山がふたつあり、ひとつが最高峰「木曽駒ヶ岳(きそこまがたけ)」、もうひとつが「空木岳(うつぎだけ)」という山で、ともに中央アルプスを代表する名峰です。

なお、亜高山帯の山々が連なる南部では、長野県阿智村と岐阜県中津川市にまたがる「恵那山(えなさん)」が日本百名山に選ばれています。

小説家であり登山家である深田久弥氏は「日本百名山」執筆する際、中央アルプス(北部)南半分からひとつを選ぼうとしてこの「南駒ヶ岳」と「空木岳」とで迷った結果、最終的にはわずかに標高が高いこと、そして山名の美しさから空木を選んだといわれており、このことから南駒ヶ岳も日本百名山相当の名峰であるといえます。

実際、故・深田久弥氏のファン組織によって選定され、従来の日本百名山にさらに100山を加えた「日本二百名山」には名前を連ねています。

改めまして越百山から北、南駒ヶ岳へと出発です。

越百山周辺は砂礫とハイマツに覆われた広い稜線となっており、しばらくの間、道脇に揺れる高山植物を横目にのどかな山旅が楽しめます。見送るように揺れるイワツメクサの白い花がとても可愛らしくきれいです。

写真中央、稜線の先にそびえるのが標高2734m「仙涯嶺(せんがいれい)」です。仙涯嶺は越百山と南駒ヶ岳の間(やや南駒ヶ岳寄り)にある山で、まずはここを目指します。今いるのどかな道とは打って変わって山頂部は鋭い尖塔の岩場となっています。

歩いてきた道(南方面)を振り返ると、優しい山容で越百山がこちらを見ているようです。コスモを感じる・・・

稜線を歩いている3人組のお兄さんとは、越百山をほぼ同時に出発して、そのとき挨拶がてら少しだけお話させていただきました。越百山からしばらくは道が本当にのどかできれいなので「稜線歩きがすごく楽しい」ってお話していました。心から共感です。

再び仙涯嶺を望みます。その先(写真左)には南駒ヶ岳がそびえています。

実は、右側のいかにも名峰っぽいトゲトゲしている方ではなくて、左側の雲で影になっている山が南駒ヶ岳です。遠近感で南駒ヶ岳の方が低く見えてしまっています。

仙涯嶺が目の前に迫ります。ここからの道は「長閑(のどか)」とは違った、精神集中区間です。落ちたら危ない個所も多く存在するので十分に注意して進みます。

こんな険しい岩場にもミヤマダイコンソウ。

仙涯嶺付近、西側の斜面を滑り落ちるように流れる沢です。この沢は、越百山へと登ってきたときに進んだ遠見尾根の左手側の下に流れています。この流れはやがて登山口の伊奈川ダムへと注ぎ、やがて木曽川の流れになります。

小鳥が、花崗岩の白い砂場で遊んでいました。こんな様子を眺めながら癒されるのも、山で過ごす楽しみのひとつでもあります。

越百山方面の景色は、時折湧き上がる雲の中へと身をひそめます。

旅の中、元気に咲く高山植物に出会えるとなんとなく幸せで、登山者とすれ違う時のように挨拶したくなるような、、、私にとっては心躍る瞬間です。

ハクサンイチゲさんこんにちは m(_ _)m

チシマギキョウさんこんにちは m(_ _)m

クサリ場さんこんにちは m(_ _)m!?

越えてきた岩稜を振り返ります。大自然がつくった造形とあふれる緑がとても美しいです。

進んできた稜線上の登山道の遥か奥には越百山が見えています。

ここまで来ると、その姿を現す異様な風景が「百間ナギ」という大崩落地帯です。この崩落は現在も進んでいるそうです。

岩間に咲くチングルマ。高山帯の各所で見られるチングルマのお花畑(群生)もまた見応えがある美しさで、中央アルプスでは千畳敷のお花畑が有名なようです。

南駒ヶ岳とその北にある標高2798m「赤椰岳(あかなぎだけ)」をつなぐ稜線の直下・東側斜面には「摺鉢窪カール(すりばちくぼカール)」と呼ばれる地形が広がっており、ここまで来ると眼下にその風景を望むことができます。

カールというのは、ポップコーンに着想を得て1968年、当時の明治製菓から発売された、とうもろこしを原料としたスナック菓子で、キャッチフレーズは「それにつけてもおやつはカール」・・・

のことを指しているわけではありません(笑)が、すり鉢状の地形は「おやつのカール」のひねり内側部分をイメージしていただけると非常に分かりやすいかもしれません。

山においての「カール」はもともとドイツ語で、日本語では「圏谷(けんこく)」といい、高山の山稜直下などに見られる、山地の斜面をスプーンでえぐったような地形のことです。これは、氷河が長い時間をかけ成長と共に山肌を削ったことで出来上がったもので、上からみると半円状または馬蹄形状の谷となっています。

同じ中央アルプスにあるカールとしては、「宝剣岳(ほうけんだけ)」の直下にある「千畳敷カール(せんじょうじきカール)」がとても有名で、駒ヶ岳ロープウェイの千畳敷駅があることでも知られています。

摺鉢窪カールには無人の「摺鉢窪避難小屋」が建てられています。その下に広がっているのは「百間ナギ」です。

そんな摺鉢窪カールと百間ナギの風景を右手に望みながら進んで行くと、まもなく、南駒ヶ岳の山頂に到着します。越百山からの標準タイムで約3時間となります。

ここからさらに先(中央アルプス北側)に望めるのは空木岳の山頂です。可能であれば下記写真を、ものすごく引き伸ばして見ていただくと山頂に人がいるのを確認いただけるかと思います。

そしてここからは空木岳と東川岳の鞍部にある山小屋「木曽殿山荘(きそどのさんそう)」も望むことができます。(黒っぽい建物です)

ここは、越百山への出発点として使わせていただいた「伊奈川ダム上登山口」から最初の分岐で空木岳方面へと進むと辿り着ける場所で、「木曽殿越」(木曽義仲乗り越えの地)といわれる場所です。

木曽義仲(源義仲)は平安時代末期に活躍した信濃源氏の武将です。

木曽殿山荘少し手前の登山道わきには「義仲の力水」という水場も存在しています。この水場は何度か利用させていただきましたが、タイミングによっては木曽殿山荘宿泊客で行列ができているほど人気があります。

左奥のピークが空木岳です。

越百山から南駒ヶ岳へ、のどかな道から迫力ある岩稜を越える変化に富んだ道の中で、自然が長い年月をかけてつくってきた風景の数々と、登山道を優しく彩る高山植物の数々。中央アルプスは駒ヶ岳ロープウェイが通っていることからどうしてもその周辺の宝剣岳から木曽駒ヶ岳あたりがフォーカスされやすく人も多くて人気です。

しかし、そこからちょっと離れたこの山は来るのにはちょっと体力を使う反面、人もかなり限られており、そこに暮らす植物や動物(野鳥)もどこかのんびりゆったりと時間が流れているような雰囲気があり(←個人的に)私はとても好きです。

今回は少しガスが上がってきてしまっている写真が多くなってしまいましたが、そんなのどかな雰囲気に癒しを感じていただけたなら幸いです。

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