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[読書メモ]産業革命も連続的イノベーションによってもたらされた

ジョエル・モイキア、監訳長尾伸一、訳伊藤庄一(2019)『知識経済の形成 産業革命から情報化社会まで』名古屋大学出版会

 

本書は 経済史の泰斗である米国ノースウエスタン大学教授のジョエル・モイキアの”The Gift of Athena””の邦訳本です。彼は、技術革新が経済に与える影響を歴史的視点から研究しており、特に第1次産業革命についての多くの研究を蓄積しています。

 

1970年代のダニエル・ベルの(1975)『脱工業社会の到来――社会予測の一つの試み』を代表として、今までの工業化社会から知識経済社会に移行するとの論評が広がりました。モノや資源を投入資源として経済的価値を生むという視点からヒトが生み出す知識こそが経済的価値を生む社会に移行していると指摘されてきました。

 

モイキアは18世紀以降のイギリスで起きた第1次産業革命も、知識としての技術が重要な役割を果たしており、起業家の活動も技術の発展に支えられたものであるとしています。

そして、技術の発展は、一人の個人発明家によって成し遂げられたものではなく、時代の制度や文化が大きな影響を与えているとしています。なぜなら、文化は選好や優先順位を決め、制度はインセンティブやペナルティーを課すからです。

 

また、技術に関する洞察の中で、技術の発展は一人の個人が知っていることよりも、その共同体が知っていることが重要であると指摘しています。そして、共同体の中で知識が伝播し、またフィードバックにより技術が継続的に進化したとしています。

その意味で、技術の進化は社会的なプロセスであるとしています。

 

技術革新やイノベーションとは当代的現象ではなく、過去においても色々な展開がありました。本書は、現代の技術革新とイノベーションに対しても示唆の富む優れた歴史書です。

 

知識経済の形成――産業革命から情報化社会まで

知識経済の形成――産業革命から情報化社会まで

 

 

 ジョエル・モキイアに関心のある人はForbのインタビュー記事(

歴史家が認める、米経済史に影響を与えた「7人の凄い人物」)も参考になります。