地域戦略ラボ

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イノベーションにおける学習と空間 (1)拡散する知識と凝集する知識

知識経済社会において交通・通信技術が発達することで知識を広範囲なところから探索して調達することが可能となりました。

同時に、ハイテク人材や高度技能者の人材獲得競争は激しい状況であり、高度な科学技術に関する知識のみならず、そのような人たちが持つ特殊技能やノウハウは人の移動と共に拡散されやすくなっています。

 

高度な科学技術をもとにした論文や特許のような形式知はコード化された知識なので拡散しやすく、ノウハウや特殊技術などの暗黙知は、文脈に依存する性格があるので特定の場所から拡散しにくいと言われています。

しかし、拡散する知識とは、形式知という知識の性格によるものではく、科学技術分野では、形式知は言うに及ばず暗黙知も個人だけでなく、チームでの人材獲得活動が活発に行われることで、チーム内で培ったノウハウや暗黙知なども移転可能となっています 。

また、企業は外資系企業の買収によって組織的近接性を構築し、ノウハウを含んだ知識を獲得しやすくなっています。

つまり、現代社会では、特定の技能やノウハウを持った人材やチームが移動すれば、イノベーションの源泉となる科学技術などの知識は簡単に国境を越えることができます。


しかし、知識は拡散しやすい状況である一方、知識は特定の地域に凝集しているという現象が見られます。

世界では科学技術をベースとしたイノベーションが盛んに行われている地域があり、それらの場所では知的集積拠点として、イノベーションに取組む多くの企業や高度技術者が集い、拡散しやすい性質であるはずの高度な科学技術に関する知識や集められ、新たな知識が日々創造されています。


知識が特定の場所に集まるのには大きく3つの要因が考えられます。

第1は、知識の累積性という性質です。

科学技術などの知識は、現在の知識が基礎となって次の知識が生れるというという連続体の中にある。また、知識は単独で存在するのではなく、様々に組み合わされた中で認知も高くなり、活用されやすくなります。

つまり、知識は集合した方が、価値が高まるという特性があるためです。

例えば、知識が要素技術として断片的に存在するより、統合された技術の方が新たなイノベーションに結びつきやすいです。

第2に、知識を創造する人々は可能性と快適性があるところに集まるという性質があります。

知識は人に付随しており、知識を創造する人間が好むライフスタイルがあり、それらが実現可能な地域に人々が集まることで新たな知識が生れます。

第3は、知識の養育者としてのパトロンの存在があります。

歴史的に見ても、知識とくに科学技術の創造には多くの費用がかかるため、資本のある所で知識が創造されて、活用・蓄積されるという性質があります。

世界的に見て富が偏在している中、知識は知識を養ってくれる富の集まるところに凝集すると言えます。

 

野澤一博(2020予定)『イノベーションの空間論』一部改筆