[読書ノート]どんなビジネスにも場所は必要である。
馬田隆明(2019)『成功する起業家は「居場所」を選ぶ』日経BP
著者はマイクロソフトでの勤務経験を経て、現在、東京大学産学協創推進本部でスタートアップの支援などを行っている。
成功するスタートアップの多くは起業家の能力だけではなく、時の利、地の利を得ながら成功する。
本書では、その環境条件を
Place(どこでやるか?)
People(誰とつながるか?)
Practice(どう訓練するか?)
Process(どう仕組みをつくるか?)と4つ分けて
それらをまとめると、「もし起業して成功したいのであれば、最適な場所(Place)と人(People)を選び、正しく訓練(Practice)をしながらその実践プロセス(process)も整備しよう」としている。
起業には、助けてくれる仲間と起業を促進させる制度・文化が重要である。仲間とは親密なコミュニケーションが必要であり、そのためには物理的な近接性が必要となる。また、起業を促進させる制度や文化とは人々が集まる特定の空間で形成される。よって、起業には特定の環境としての空間が必要だと言える。著者はこれを「居場所」と名付けている。
場所に関する議論を見てみると、働く場所としてコミュニケーションがとりやすく創造性を掻き立てる空間があり、大学などで親密な関係を気付くことが人脈形成として重要であり、イノベーションを加速させる場所としてサロンやカフェなどのサード・プレイスがある。また、シリコンバレーではHPやアップルのように、ガレージで操業することもあるとしている。
起業はビジネス行為であるので人々が集う物理的な空間を必要とするし、同じようにイノベーションの学習も当然人々が集う物理的な空間を必要とする。起業とイノベーションは切っても切り離せない関係であり、イノベーション・エコシステムの議論ではそれは一体化している。
つまり、起業が場所という制度的空間が必要であるのと同様に、イノベーションにも場所という制度的空間が必要となる。
著者はスタートアップの育成支援に関して多くの経験があるが、自分の経験則だけによって本書の結論を抽出したわけではなく、本文中に多くの参考文献を紹介しながら、自分の理論を補強している点で好感が持てる。