ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

ホタルを滅ぼすホタル観賞 これが光害だ!!

2020-06-14 15:29:14 | ホタルに関する話題

 今月はゲンジボタル、来月はヒメボタルの生息環境の調査・研究を進めるための計画を立てているが、この週末は伊豆方面に遠征する予定であったが、悪天候であったため、急遽、場所を変更し、山梨県内の生息地へと足を運んだ。
 その場所は、ゲンジボタルの自然発生地であり、幼虫の上陸観察には何度も訪れているが、成虫が舞う時期の訪問は、2005年6月11日以来である。15年もの間、6月に一度も行かなかったことには理由がある。それは、あまりにもホタル観賞者が多いからである。ホタル祭りが行われ、観光バスや乗用車が何十台も来る。川沿いは人で溢れる。当然のことながら「光害」が酷く、ゲンジボタルは、ほとんど発光飛翔しないのである。その光景が、とても悲しく、悔しい思いをしたので、二度と行くまいと思っていた。
 ところが、今年は新型コロナウイルスの感染拡大防止のために「ホタル祭り」は中止となったため、また、最盛期でもあり、更には天候も雨のち曇りという予報であったことで当地に行って見ることにしたのである。

 13日の14時に自宅を出発。途中の中央道は本降りの雨。現地には16時半にし、日暮れを待った。
 19時には雨も止み、川沿いで待機していると、19時24分、一番暗い茂みの中で一番ボタルが発光を始めた。ホタル祭りが中止となった影響だろう、観賞者は私以外には一組だけであった。気温は22℃。蒸し暑く、まさにホタル日和。次第に発光する数が増え始め、飛翔するようになった。
 20時近くになると、川沿いの県道を通る車がいきなり多くなった。小さな集落はあるが、車は地元の方ではなく、すべてホタル観賞に訪れた車である。車が通るたびに、少しの間だけヘッドライトの明かりが河川に当たるが、それほどの影響はない。問題は、駐車場所である。ゲンジボタルが飛び交う河川に横づけで止め、しかもヘッドライトを消さない。ハザードは付けたまま。路上には、それが何台も止まっているのである。ちょっと見たら帰る。ドライブスルー的ホタル観賞である。
 当地には、大きな駐車場があるのだが、祭りが中止のために駐車場も閉鎖。(この駐車場にも問題があり、駐車した車のライトがすべて川に当たるのである。)私は離れたスペースに車を止めたが、他の観賞者はすべて路上駐車である。当然、ゲンジボタルは発光を止める。車がいなくなり、やっと暗がりが戻っても、すぐには発光飛翔を再開しない。茂みの中から徐々に発光を始めるが、また車のライトが当たる。今度は、遊歩道を懐中電灯を照らしながら歩いてくる。またゲンジボタルは発光を止めてしまう。ずっと、その繰り返しであった。私は、終始無口を通したが、懐中電灯を振り回すお子さんが私の横を通り過ぎようとした時、「写真を撮っているから灯りを消しなさい」という声。相変わらず、分かっていない。私は軽く会釈はしたが、心の中で「ホタルのために灯りを消してほしい」と言った。結局、今回もやるせない気持ちで当地を後にした。当地にはホタル保存会が存在するが、いったい何のために活動しているのか疑問である。先々週に訪れた千葉県は、保存会すらない、まったくの自然のままの里山である。そこがいかに素晴らしいかが良く分かる。
 この日は、当地のゲンジボタルの発生時期のピークであると思うが、発生数はここ15年で10分の1にまで減っているように思う。

 以下の写真は、当地での光景であるが、上記の現状を表してはいない。19時半の光り始めから、9秒間の露光を1秒間隔で光終わる21時まで撮影したカットの中で、ホタルが発光飛翔したカットだけを全て重ねたものだからである。その露光時間はのべ8分である。つまり、ホタルの活動時間約90分の中で、ホタルがまともに光りながら飛べたのは、わずか8分ということになる。
 ホタルは、光る昆虫である。オスは光ながら飛ぶ。メスは、飛ばずに下草で光っている。メスは、飛んでいる光を見つけると下草で光りだす。オスは、飛びながら、メスの光を見つけるとメスのいる所へ降りていく。そして、光で会話が始まるのである。フラれてしまうオスもいる。メスは、たくさんいるオスの中で一番、光の強いオスを選び、結ばれるのだ。お互いの光は、暗闇でなければ見えない。0.1Luxの月明りでさえ、ホタルの会話を邪魔するのだ。
 暗闇が必要なホタルに車のライトが当たる。懐中電灯が当たる。ホタルは、光ることを止めてしう。これが「光害」である。ホタルは、灯りの当たらない僅かな瞬間で会話をしなければならないのである。こうしたホタル観賞がホタルを滅ぼすのだ。
 ホタル観賞に車で行く時は、ホタルが光りだす前の19時に行く。帰るのは、光終わった21時。(私の車はハイブリッド車で、生息地近くではEVモードで走行している。)あるいは遠くに車を止めて歩いてくる。日暮れ前の19時から小川のほとりで待っていれば、目が慣れるので懐中電灯は必要ない。これは、ホタル観賞のマナーではない。ホタルと自然環境を保全する鉄則だ。そうしなければ、ホタルは滅びてしまうのだ。
 こう書くと「お前も来てほしくない部類だ」とか「カメコはわがままだ」という批判をコメントで頂くが、まずは、光害の動画を是非ともご覧頂きたい。それから議論したい。私は撮影者として、研究者として現場に立っているが、本来は、私も含めて誰も行かなければホタルにとっては幸せなんだろうと思う。ただ、こうした現状を多くの方々に理解していただくことも必要である。このような記事がホタルと自然環境の保全に少しでも役立てば幸いである。

お願い:なるべくクオリティの高い写真をご覧頂きたく、1024*683 Pixels で掲載しています。ウェブブラウザの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、画質が低下します。Internet Explorer等ウェブブラウザの画面サイズを大きくしてご覧ください。また動画においては、Youtubeで表示いただき、HD設定でフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。

ゲンジボタルの飛翔風景の写真

ゲンジボタルの飛翔風景
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 8分相当の多重 ISO 800(撮影地:山梨県 2020.6.13)

ホタルを滅ぼすホタル観賞 これが光害だ!!

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