ホタルの独り言 Part 2

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シルビアシジミ

2018-11-19 18:13:13 | チョウ/シジミチョウ科

 シルビアシジミ Zizina emelina emelina (de l'Orza, 1869) は、シジミチョウ科(Family Lycaenidae)ヒメシジミ族(Tribe Polyommatini)シルビアシジミ属(Genus Zizina)に分類される体長10mmほどのシジミチョウで、昆虫学者でもあった中川和郎氏(国立がんセンターの初代所長)の娘の名前にちなむ。年に4回程発生し、幼虫で越冬。成虫は4月下旬から11月頃までほぼ連続して見られる。羽化する時期によって低温期型と高温期型があり、低温期に羽化する個体は青い鱗粉が濃く(メスにも前翅表基部に弱い青藍色斑が現れ)また、高温期型に比べてとても小さい等の形態的特徴がある。

 シルビアシジミは、1877年(明治10年)に発見された栃木県さくら市を東北限とした本州、四国、九州に分布し、河川敷やシバ状の草地など草丈の低い開放的な草原環境に生息し、マメ科のミヤコグサ(Lotus japonicus)などを食草としている。もともと里地里山や平野部などの人間生活に近い場所に生息していたため、土地開発によって大きな影響を受け、1980年以降、全国的に著しく減少している。本種は、発生時期において各個体が羽化するタイミングの同調性が低く、成虫の寿命が短いこと、また昆虫類特有の感染症の影響、更に本種は、移動性が低いために地域ごとに異なる遺伝子のタイプをもっていることから近交弱勢が進み、各個体群ごとの遺伝的多様性が低下し、個体数が著しく減少している。
 環境省RDBカテゴリでは、絶滅危惧ⅠB類(EN)に選定され、東京都、埼玉県、愛知県、岐阜県、滋賀県、和歌山県、高知県、愛媛県では絶滅、その他分布域のほとんどの府県で絶滅危惧Ⅰ類に選定している。栃木県さくら市では、市の天然記念物に指定しており、採集を禁止している。関東周辺においては、栃木県では鬼怒川水系と渡良瀬川水系のみ、山梨県では、富士川の河川敷等に生息、千葉県では、銚子や白浜にミヤコグサの群生地があるが、銚子では絶滅し白浜でも見られない。同県では房総の一部の農地に点在しているのみで、絶滅危惧Ⅰ類および重要保護生物に指定されている。

 シルビアシジミは、2013年から千葉県某所に通って観察と撮影を続けてきた。発生時期にはヤマトシジミ Zizeeria maha argia (Menetries, 1857) も出現し、飛んでいる様子を見ただけでは区別がつきにくいが、葉上に止まった時に翅裏の斑紋パターンを見れば、後翅裏面第6室基部の黒斑が第7室の黒斑の直下に位置することで容易に判別できる。
 昨今、比較的近縁なヤマトシジミとの交雑種(ハイブリッド)が出現しているという情報がある。両種の特徴がそれぞれ翅裏の斑紋や翅表の色彩等に現れていると言う。研究では、南西諸島に生息する近縁種のヒメシルビアシジミ Zizina otis riukuensis (Matsumura, 1929) との交尾が確認されており、ヤマトシジミにおいては、交尾は確認されてはいないものの両種間で強い関心を示すことが明らかになっており、交雑種が出現する可能性も示唆されているが、筆者は、確認していない。
 千葉県の生息地では、食草のミヤコグサも自生しているが、草地にわずかばかりであり、本種は「食草転換」をしシロツメクサを主食としている。背丈が低い草地や草がまばらに自生し地面が露出している農道を好み、地面スレスレにすばやく飛翔する様子が見られる。産卵も植生のまばらな裸地的な場所にあるシロツメクサに行われている。こうした事は他の地域でも見られる。大阪(伊丹)空港の滑走路脇の草地などでシロツメクサを主食として大繁殖している。航空機の誘導灯が草に覆われないよう頻繁に草が刈られていることで生態系が保たれ、また食草転換することで生き延びて繁殖を続けていると言われている。千葉県の房総地域では、地主の高齢化により草刈りが行われなくなり、背丈の高い草に一面埋もれてしまうなどで消滅してしまう生息地も見受けられるが、撮影地である生息地は、春季の刈り払いによる畦畔と毎月行われる刈り払いの畦畔が共存し、この環境が本種の生息につながっていると考えられるが、個体数の少なさを観察に訪れる度に感じる。
 地味なチョウではあるが、生息地ごとに遺伝子タイプが異なっていることから斑紋にも地域変異があり、標本マニアによる採集・乱獲も頻繁に行われている。幸い撮影地である生息地では、網を持った採集者はこれまで見たことがなく、地元の方にも本種の生息は知られていないので、里山管理が継続して行われることを期待し本種の存続を祈りたい。また、当地における気温と羽化時期の関係も不明であり、これまで羽化直後の翅が擦れていない個体の開翅写真も撮影できていないので、今後も観察と撮影を継続していきたい。

参考文献
坂本佳子 (2015). 絶滅危惧種シルビアシジミにおける遺伝子構成とボルバキア感染. 昆虫DNA研究会ニュースレター, 23, 11-18.
坂本佳子 (2015). シルビアシジミの生息域外保全に向けた保全単位の決定. 昆虫と自然, 50(2), 12-16.

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シルビアシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F6.3 1/125秒 ISO 250 +1/3EV(撮影地:千葉県 2014.9.27)

シルビアシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 200(撮影地:千葉県 2013.10.13)

シルビアシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F6.3 1/160秒 ISO 320(撮影地:千葉県 2014.9.27)

シルビアシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 1/400秒 ISO 200(撮影地:千葉県 2014.4.26)

シルビアシジミ(オス開翅)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 1/160秒 ISO 200(撮影地:千葉県 2014.4.26)

シルビアシジミ(オス開翅)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 1/125秒 ISO 200(撮影地:千葉県 2014.4.26)

シルビアシジミ(メス開翅)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F4.0 1/500秒 ISO 200 +1EV(撮影地:千葉県 2014.10.11)

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2 コメント

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Unknown (H.Udagawa)
2018-11-21 07:29:58
こんにちは。
参考文献にある坂本さんは国立環境研究所の研究者で外来生物などを研究している方だと思います。
参考文献 (ホタル)
2018-11-21 11:46:39
こんにちは。
そのようですね。シルビアシジミの研究で博士論文も書かれていました。
その内、談話会に来ていただきお話を伺いたいですね。

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