父は、若いころ、山男だった。
山岳会に所属して、登山のパーティーのリーダーをやったりもして、
山道具や登山靴は、常に玄関に置いてあったらしい。
らしい
と言うのは、母との結婚を機に、父は本格的な登山はやめており、自分がしてきた登山のことについて語ることもあまりなく、
山道具云々についても、母が祖母から聞いたと言う話なので。
もっとも、私たちが子供のころの家族旅行は、毎年、山方面だった。
清里の飯盛山
八方池
上高地
乗鞍
火打山
など
素敵な景色をたくさん見せてくれた。
その父が3年前に亡くなったあと、遺品の中から、山に関わる写真が、1枚だけ出てきた。
谷川岳の山頂で、山仲間らしい人と一緒に、山頂の標識に手をかけて笑っている、まだ20代であろう父の写真。
それを見つけたときは、母と
「お父さん若いねー」
と笑って見ていたのだけれど、
その後、自分で登山を始めてから、一度は谷川岳に登らなくてはいけないと思うようになり、
今回、実現することができ、
せっかくなので、同じようなポーズで写真を撮ってきた。
それを父に見せることはできないけれど。
何かさ、その後、私も登山するようになったよ。
山頂の標識は、もちろん違うものになっていたけれど、私も同じところに立ったよ。
でもまあ、たぶん、一緒に来てたんだよね。