蝮(まむし)の孫 | おおとり駆の城日記

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子供の頃からお城好き 今までに巡ったお城の感想 その他どうでもいい趣味のことなどあれこれ綴っていきます

講談師・旭堂鱗林(きょくどう・りんりん)さんの初笑い講談に行ってきました。
最近は神田松之丞さんをはじめとした講談ブームですが、鱗林さんは名古屋在住の女性講談師。
瀬戸市出身の藤井聡太七段を題材にした創作講談などを手掛けています。
元々がお笑い芸人だったこともあって、面白可笑しく講談を聞かせてくれます。
鱗林さんが歴史もの、特に太閤記の講談をおこなっていた縁で同じ名古屋在住の歴史小説作家・天野純希さんの新作「蝮の孫」の解説を書くことになったそうです。
この日は宣伝のために8冊だけ持ってきているので、ご希望の方にお分けしたい、早いもの勝ちですよと言われました。これはあっという間になくなるかと思いきや、みなさん周りをうかがっている様子だったので、素早く鱗林さんに近寄り、1冊お願いしますといって、サインもいただきました。
いわば突発的に買った小説ですが、いや、これが予想以上に面白かったです。


主人公は美濃の蝮こと、斎藤道三の孫、斎藤龍興。
父義龍の急死後わずか14歳にして美濃の国主となりますが、10代にもかかわらず酒と女に溺れ、学問にも武芸にも身が入らない絵に描いたような三代目のボンボン
ある日、家臣の竹中重治(のちに秀吉の軍師となる竹中半兵衛)にわずか16人の手勢で居城稲葉山城を奪われてしまいます。(一般的には竹中半兵衛が主君を懲らしめるために一時的に城を奪い、すぐに返還したと言われていますが、この小説では半兵衛は野望に燃え、軍師としての名をあげることを求める男、そして龍興の宿命のライバル的な存在として描かれています。)
一方、龍興は脱出時に本当に愛した女性を失ったことで、城を出てからは改心し、軍略や武芸に励み、洪水対策のために長良川にすすんで堤を築くなど領民の信頼を得ます。
そして今度は逆に策により半兵衛を打ち破り、稲葉山城の奪還に成功します。
しかし、それもつかの間、尾張の織田信長の侵攻の前にはなすすべもなく敗れ、美濃国を追われます

龍興に関してはここで歴史の表舞台から退場したと一般に思われていますが、実はその後ドラマティックに彼の人生は反転していきます。
龍興は最初伊勢長島に逃れますが、再起を促す旧臣たちとともに堺、京都、摂津、姉川、比叡山と転戦し、絶対的窮地の中、時には信長をあと一歩まで追い詰めます。
「己とは何なのか」「何のために戦うのか」を模索しながら成長し、信頼できる家臣たちと信長や半兵衛に立ち向かう姿はとても軽やかで清々しいものでした。
ついには朝倉義景の客将として越前・刀根坂の戦いに加わり壮絶な最期を遂げたかと思われましたが・・
最後まで龍興を支えた家臣たち、長井道利も小牧源太も、槍の名手可児半蔵も、そして暗愚といわれる朝倉義景さえも魅力的な人間として描かれていました。
大部分は作者の創作、フィクションとは思われますが、まったく根拠がないわけでもない。歴史小説の面白さを十二分に楽しませていただきました。
天野さんの他の作品も読んでみたいと思わせる一冊でした。


会場は文化の道・撞木館で行われました。

いただいた旭堂鱗林さんのサイン
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