『群馬百物語 怪談かるた』 著者解説 Ⅰ | 戸神重明、怪談ブログ

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おかげさまで 群馬百物語 怪談かるた (竹書房怪談文庫)の発売から一ヶ月が経ちました。
お買い上げ下さった皆様、どうもありがとうございます!
一時は刊行できるのか、危ぶまれる場面もありましたが、無事に発売され、書店やコンビニの店頭に置いていただくことができています。
しかし、もっともっと大勢の方々に読んでいただきたいので、宣伝を兼ねた(というか、明らかに宣伝ですが。笑)著者解説をネタバレにならない範囲でやってみようと思います。
取材や執筆の裏話も交えながら連載します。

 

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まず、群馬百物語 怪談かるた は、本物のかるたではありません。文庫本の副題です。
なぜ〈かるた〉なのかというと、各話のタイトルがかるたの読み札風になっており、映像的な文章で絵札をイメージさせるという、実験的な実話怪談集だからです。
もう一つ、群馬県では、小学校の教育に取り入れられた 上毛かるた の人気が高く、その影響を受けた地域かるたも多数作られていることから、タイトルに〈かるた〉の文字を入れれば、少なくとも群馬県内ではヒットするのではないか、と考えたためです。


そこで当初、本書のタイトルは『群馬百物語 怪談上毛かるた』として、各話のタイトルに本物の 上毛かるた の読み札の句を用い、その地域や事物に関連した話を書いてゆく形式を考えました。
上毛かるたの五文字を出せば、絶対に群馬県民の支持を得られる、と思ったからです。
その頃の私は、 上毛かるた といえば、群馬県各地の小学校で教材として利用され、替え歌が唄われたり、菓子になったりもしているので、てっきりフリー素材なのだろうと思い込んでいたのです。
しかし調べてみたところ、著作権は群馬県が所有しており、利用するには申請が必要とのことでした。
そこで県に原稿の一部と企画書を送って相談したところ、「公序良俗に反する書物である」「本物の 上毛かるた と混同する」との理由で却下され、利用申請書を受付けてもらうことすらできませんでした。

 

そこで 怪談上毛かるた ではなく、オリジナルのかるた風にすることに作戦を変更することになりました。
昨年の晩秋には私が主催しているイベント 高崎怪談会 でも、オリジナルのかるたを作って今年の1月に遊ぶ企画を考えていたので、ちょうど良いと思い、ネット上で読み札の句(俳句ではない)を募ったり、自ら考えたりするようになりました。
その遊び用のかるたに関しては 高崎怪談会 にちなんで、 高崎怪談かるた と名づけ、以下の読み札を作るところまで進むことができました。



 

高崎怪談かるた(試作品1号) ( )内は市町村名と考案者名で、一般人の方はアルファベット表記。


あ 小豆とぎ婆の 伝説残る 高崎城址(高崎、戸神)

い 伊香保の心霊廃墟 木造病棟(渋川、戸神)

う 梅田奥 廃墟へ続く 黄泉の道(桐生、高橋幸良さん)

え えっ と驚く オトウカ火(県下全域、戸神)(備考:「え」でこれだ! という良い話がなかった。笑)

お 尾瀬ヶ原 道無き湿地に 影が行く(片品、高橋幸良さん)

か 怪談を 群馬で楽しむ 高崎怪談会(高崎、戸神)(備考:引き分けの場合、この句を取ったほうが勝者扱いになる設定)

き 黄色のレインコート 稲含山の 少女霊(甘楽、下仁田、戸神)

く ○○湖の 廃神社には 覗きや老女(みどり、Hさん)

け 県都の怪異 戦争犠牲者の 霊(前橋、戸神)

こ 琴平橋 自殺者の幽霊現れ あの世にいざなう(藤岡、Aさん)

さ 境野の 踏切脇の 地蔵尊(桐生、高橋幸良さん)

し 消防車 鐘は聴こえど 姿無し(安中、Hさん)

す 住まいの怪異に 才能開眼(渋川、戸神、情報提供、江連美幸さん)

せ 前後から 迫る女の 覚満淵(前橋、Hさん)

そ 薗原湖 その名も高き 心霊のダム(沼田、高橋幸良さん)

た 多々良沼 自殺者を招く 武者の霊(館林、邑楽、戸神)

ち ちゃんころりん石の 伝説残る 安中市(安中、戸神)

つ つかまるな 陸橋の影法師 新前橋の怪(前橋、高橋幸良さん、情報提供、Hさん)

て 天狗が現る ○○神社(前橋、M子さん)

と 通るたび 女性の悲鳴 39号線(太田、Fさん)

な 中山峠 生けるも死ぬも 怖い夜(高崎、Kさん)

に 新里村の 寺の鐘(桐生、戸神)

ぬ 沼田城下の 夜桜と 生首(沼田、戸神、情報提供、Bさん)

ね 猫が鳴く 猫がいない ○○○の家(高崎、戸神)

の 野山にて 娘を襲う 藪塚の○○(太田、戸神)

は はねたきが呼ぶ 高津戸峡谷 霊のたまり場(みどり、高橋幸良さん)

ひ 広瀬川 涼む川面に 美女ありけり(前橋、Hさん)

ふ 踏切に 佇み事故呼ぶ 黒いニット帽の男(中毛某所、Aさん)

へ ヘッドライトが消える 碓氷峠(安中、戸神)

ほ 墓石から 血潮滴る 長松寺の 槍の跡(高崎、戸神)

ま 松並木 首塚あとに 怪異あり(前橋、Hさん)

み 未来が写る 富岡製糸場(富岡市、戸神)

む ムジナかな 夜の道路を 走る影(県下全域、M子さん)

め めがね橋 渡る灯は 家路に向かう(安中、Hさん)

も 茂林寺の タヌキは意外と 気味悪い(笑)(館林、Hさん)(備考:寺の名を出すのはギリギリOK?)

や 矢瀬遺跡 見える感じる 縄文の精霊(みなかみ、戸神、一部情報、Bさん)

ゆ 夕涼み にやりと笑う 姫地蔵(桐生、戸神、情報提供、高橋幸良さん)

よ 夜の高崎 裏道に出る おでん形妖怪(高崎、戸神、情報提供、S美さん)

ら ラフティング 利根川支流の 水死霊(北毛、戸神、情報提供Nさん)(備考:Nさんの希望で場所はぼかす)

り 両毛線 雨の伊勢崎で 雨鬼が待つ(伊勢崎、戸神、情報提供、Hさん)

る 瑠璃色の 大蛇が巻きつく 杏の木(高崎、戸神)

れ 漣痕(れんこん)から 夜に出てくる ○○霊? (神流、戸神)

ろ ロープウエイ 乗り場の前に 死霊が佇む 谷川岳(みなかみ、戸神)

わ 若山牧水に ちなむ怪異の 猿ヶ京(みなかみ、戸神、一部情報、Bさん)


(読み札は仮の札で、いずれ第二次募集と再選考を行う可能性あり。絵札は未制作。 高崎怪談会 を休止せざるを得なくなったことなどから、現時点での制作は中断。場所を明かさないほうが良いと判断した句は〇で伏せた部分あり。既でよく知れ渡っている場所についてはそのまま発表)

しかし、こうしてできあがった読み札の句を、そのまま書籍に収録する各作品のタイトルに転用することはできませんでした。

その理由は、次回に続く。

 

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