「○ちゃん(息子)はどうしょん。どこで暮らしょん」
抗精神薬と睡眠薬の服用を止めてから、足も頭も元気にクリアになってきている母は、面会に行くと、一番気になっている息子のことを堰を切ったように尋ねる。聞いてもすぐに忘れてしまうので、何度も何度も尋ねる。その度に根気よく、同じ返答をするんだけれど、出来るだけ短く答える。
説明が長いと、はじめの方の話しを忘れてしまい、話の途中で、
「えっと、○ちゃんはどこで暮らしょんかな」と振り出しに戻ってしまうから。
外出後ホームに帰る車の中では、車がどこへ向かっているのかを気にする。
「どこにいきょん」
「私はどこに住んどん」
「誰と住んどん」
「お金はどうしょん」
母は、今、自分の目に映っている世界で、瞬間を生きている。
ホームにいるときは、そこが自分の居場所だと認識して暮らしているが、ホームや一緒に暮らしている人たちが目の前からズームアウトしたら、忘れてしまう。自分はどこに住んでいるのか。誰と暮らしているのか、わからない。そしてそんな自分に気づいて驚く。
「へぇ~、私、忘れとるわ」
2.3日前には、夜ごぞごそと、部屋の隅に置いていた、袋入りの夏用タオルケットや、毛布などをベットに広げていたとのこと。おそらく何度も同じ事をするので、スタッフさんが別室にかわし、今日それらを我が家へ持って帰った。
認知症でも、その行動には訳がある、と私は思っている。
どうしてなんだろう。
どうしてそういう行動を取ったんだろう。
その行動の訳を知りたい…けれど、その時、その場所で聞かないと、母はもう自分の行動を忘れている。
お母さん、どうしてなの?