お兄さんは頭を打ったことにしました_11

食事を摂ってくると言ったものの、食欲なんてわくわけがない。
むしろ飢えて死にたい気分だ。

おそらくショックで青くなっているであろう顔を誰にも見せたくなくて、とりあえず気持ちを落ち着けようと会議場から徒歩2分のホテルの部屋まで戻った。

とにかく会議は今日で最終日。
午後の会議を終えれば国に自宅に帰れる。
それまではなんとしてでもポーカーフェイスで乗り切らなければならない。

辛さや悲しさを隠すのは得意だ。
幼い頃からそうしなければ生きていけなかったから、いつだって痛む心を一時的に凍結して笑みさえ浮かべて過ごしてきた。

今だってできるはずだ。
そう今日、会議が終了するまではフランスの事は考えるまい。
会議に集中するんだ

胃がムカムカして一度吐いてしまったが、吐いたことで一時的にはすっきりした。

何度も何度も会議の議題を脳内で繰り返して頭を仕事で埋め尽くし、余計な事を考えずにすむようにぎりぎりに会議場入りしようと、10分前にホテルの部屋を出て会議室へ戻った。

そうしていつになく真剣に午後の会議に臨んでいるうちに、会議終了時刻へ。

幸いにして誰にも様子がおかしいなどと思われてはいないようだが、事情を知っているドイツやスペイン、イタリアに声をかけられたくない。

だからドイツが会議終了を宣言するとさっさと私物をカバンにしまい、会議室を足早にあとにした。

が、その時いきなり後ろから腕を掴まれて、ズルズルと一室へひきずりこまれる。



ぷろいせん?」

昔から突発事項は苦手だ。
こんな風に急に行動されると固まってしまう。

今もぽかんと呆けていると、イギリスをこの部屋に引きずり込んだ張本人はそれについては何を説明するでもなく、

「俺様、5分で片付けるから、ちょっと待っててくれ」
と、自分の側の状況だけを口にしながらちゃっちゃと帰り支度をしている。

そうしてどうやら私物の整理が終わってあとの片付けは部下に任せることにしたらしい。

その旨を電話で依頼し終わると、また無言でイギリスの腕をつかんでスタッフ用のエレベータでおそらくスタッフ用なのであろう駐車場へ。

そして車の助手席にイギリスを乗せて自分は運転席に座ると車を発信させた。



会議中あまりに気が張っていた事もあって、ここまでイギリスは抵抗らしい抵抗をする気力もなく、されるがままだったのもあるのだろう。
プロイセンからはそれまでこの行動について何も説明がなかったのだが、ここで初めて事情説明らしきものがあった。

「悪い。これからちょっと誘拐させてくれ。話したいことがあるんだ。
国レベルの話じゃねえ。
俺様個人の行動だから、個人に対してはあとで怒ろうが殴ろうがかまわねえから。
ちなみに今は車で10分くらいの俺様の別宅に向かってる。
今は運転中で危ないから、おとなしくしててくれな?」

ずいぶんと思いつめたような真剣な顔をしてそう言うから、思わず頷いてしまう。

たぶん害があるようなことではないだろう。
プロイセンは昔からプライベートではイギリスに対して誠実で優しい男だった。

特に昨今は、いきなり何か食わせろと訪ねてきた時にスコーンを食べて倒れて以来、何故か1ヶ月に1度くらいの頻度で自作の菓子を手にイギリスの家に遊びにくるようになっていて、彼との関係は決して悪いものではない。
むしろイギリスの他国との関係の中では、日本に次いで和やかに親しいものだと言える。

だからイギリスは黙って従うことにした。



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