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<前半記事>

『池袋ウエストゲートパーク』その6:『I.W.G.P.』と妻夫木聡(前半)
https: ameblo.jp/mituko-naotora/entry-12552061776.html

 

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『池袋ウエストゲートパーク』その2:『I.W.G.P.』と佐藤隆太
https://ameblo.jp/mituko-naotora/entry-12537482722.html

 

『池袋ウエストゲートパーク』その3:『I.W.G.P.』と阿部サダヲ
https://ameblo.jp/mituko-naotora/entry-12543243736.html

 

『池袋ウエストゲートパーク』その4:『I.W.G.P.』と高橋一生
https://ameblo.jp/mituko-naotora/entry-12545125166.html

 

『池袋ウエストゲートパーク』その5:『I.W.G.P.』と山下智久
https://ameblo.jp/mituko-naotora/entry-12537482722.html

 

 

 

(6) 『I.W.G.P.』における妻夫木聡(その2)

 

 

 2010年の『悪人』は、妻夫木聡が既に小説の段階から、自らの主演を含めた企画を想定していたモノで、妻夫木は事務所を通じ、原作者の吉田修一および出版社に映像化にあたっての版権確認に動いていた。

 

 しかしこの時既に、東宝が映像化権を押えていたことを知り、一時は諦めていたものの、何と東宝の側から偶然にも主役のオファーが舞い込んで来たのだという。運命的と言っても良い程の配役だったのだ。

 

 この様に、妻夫木自らが主体となっての主演と映像化の企画を兼ねた動きはテレビドラマにおいても見られる。代表的な作品は2018年のWOWOWの連続ドラマ『イノセント・デイズ』(原作:早見和真、脚本:後藤法子)で、妻夫木が主演を務めた佐々木慎一は、『悪人』の清水祐一同様、明るく爽やかな好青年のイメージとはあまり縁の無い、どちらかというとコミュニケーションの不得手なキャラクターであったし、殺人の嫌疑をかけられた幼馴染・田中幸乃(演:竹内結子)の判決を覆そうと尽力するその内容は、かつての「トレンディー俳優」のイメージとは一線を画す内容であった。

 

 

 

  …そして話は妻夫木の第三の転機・『ミュージアム』の霧島早苗役へと移る訳だが、その前に少しだけ「テレビドラマ俳優」妻夫木聡について触れておきたい。

 

 2003年に『I.W.G.P.』スペシャルを経てTBS『ブラックジャックによろしく』にてドラマ初主演したのちの2004年、妻夫木は同じTBSの『オレンジデイズ』というドラマで主演している。

 

 なんとこのドラマ、脚本がかの北川悦吏子でしかも、妻夫木聡や柴咲コウといった主要登場人物は当て書き(配役を具体的に決定し、そのイメージで脚本を書くこと)という、頭の先から尻尾の端まで北川悦吏子ワールドが迸る、ベタベタの恋愛ドラマ、だったのである。

 

 そしてその翌年、明らかに『オレンジデイズ』の妻夫木の空気をそのままフジテレビにスライドしてきたドラマが『スローダンス』(共演はのちに『悪人』でも妻夫木と共演する深津絵里、脚本は『のだめカンタービレ』の衛藤凛)で、実はこの頃の妻夫木のイメージをいまだに忘れられないファンも多い。

 

 

 

 しかしこれ以降、妻夫木はテレビのプライムタイムの連続ドラマの出演を抑え始める。連続モノだけに絞ると2009年のNHK大河ドラマ『天地人』、フジテレビ『若者たち2014』、そして既述の2018年『イノセント・デイズ』位で、あとは専ら映画出演に重点を置いていたのだ。

 

 恐らくは北川悦吏子脚本に代表される、妻夫木を爽やかイケメン好青年という固定化したイメージでしか使おうとしないテレビの姿勢に、妻夫木は懐疑的であったのだと思う。いや寧ろ、妻夫木はここで日9や月9のプライムタイムドラマの顔として、俳優としてのキャリアが消耗されていくことを、安易にチャンスと捉えないが為の自制心を働かせたのだ、とも言える。

 

 言っては何だが2004年~05年当時においても既に、「恋愛の神様」北川悦吏子の作るストーリーは1990年代いや80年代のトレンディードラマの残骸に近いモノと見做されていたフシがあった。これでは先がないと妻夫木が考えたのだとしたら、それは正しい判断だったと言える。

 

 実際2018年にもなって北川が、民放で断られた脚本にNHKの連続テレビ小説向けの修正を加えた『半分、青い。』は北川自身のTwitterでの出過ぎた発言も相まって、内容的には決して芳しい評価を得たとは言えなかった。要は、視聴者からは最早「時代遅れ」に分類されかかっていたのである。

 

 恋愛ドラマにおける爽やかで優しく、そしてイケメンの主人公というのは、あくまでも妻夫木が保持する資質の一部でしかない。本来の妻夫木の役者のしての振り幅の広さは、恋愛ドラマという枠の中だけでは徒に制限が加わるだけだし、周知の通り恋愛ドラマは若手俳優の台頭の場である以上、世代交代のスピードももの凄く早い。

 

 所詮は『オレンジデイズ』にせよ『スローダンス』にせよ、妻夫木聡という俳優に全幅の信頼を寄せて制作されたドラマではないのだ。北川悦吏子は妻夫木の俳優としての力量を過小評価し、どちらかというとモデルに近い捉え方をしていたのは間違いないと思う。

 

 既に2003年の時点で妻夫木は、『ジョゼと虎と魚たち』で紋切り型のラブストーリーも、ただただ恋愛に溺れるばかりの悩みも葛藤も浅い青年役を演じることも、卒業していたのである。

 

 なのに無意味に路線回帰を強いられることは、妻夫木の中ではあまりにも不本意であったと位置づけられていたのは、難なく想像がつく話かと思う。

 

 

 2010年の『悪人』、そして2016年の、『悪人』同様原作・吉田修一、監督・李相日の『怒り』における綾野剛との濃厚な同性愛描写を経て、遂に妻夫木は、重要な第三のターニングポイントを迎える。配役は…光線過敏症の障害に苦しむ猟奇殺人犯である。

 

 かくして2016年、妻夫木はこれまで一度も演じたことのない役柄に挑むこととなる。

 

 『ミュージアム』は『週刊ヤングマガジン』に連載された漫画作品を原作としたサスペンスホラーである。主演・小栗旬の沢村刑事と、尾野真千子が演じる沢村の妻・遥を極限状態にまで追い込むカエル男・霧島早苗を誰が演じるのか…公開直前の当時はシークレットとされていた。


 このカエル男は、とある事件の裁判員裁判に関わった者達を悉くつけ狙い、「刑」と称して様々な猟奇的手段で殺害していく。雨の日を選んで犯行を繰り返すカエル男は、生々しいカエルそのもののマスクを被り、ストーリー後半になるまでは誰が演じているのかもわからない。しかしながら遂に、カエル男こと霧島早苗はそのマスクを脱ぎ捨て正体を晒す訳だが、にもかかわらず一体誰が演じているのかもわからない位に、容貌が異様なのである。

 

 特殊メイクのせいもあるのだろうが、ツルツルに剃り上げたスキンヘッドに凸凹の傷、同じく顔のあちらこちらにも傷…いかにも神経質そうな身のこなしや喋り方…予めこれが妻夫木だと知らされていない状態で、果たして誰がこの霧島を妻夫木聡が演じていることを見抜けたというのであろう。『ミュージアム』では危険なモノも含めてかなりの数のアクションが映像に含まれていた訳だが、妻夫木はこれらをスタント等の代役を殆ど入れずに、自分でこなしているのも特筆すべきであろう。確かに「これ以上の適役は他にはいない」という境地まではあと一歩かも知れないが、少なくとも妻夫木が、殺人鬼/サイコパスにまでその配役の振り幅を広げてみせたことは、決して否定できない。

 

 

 おわりに

 

 映画における妻夫木の主演作品には、名作が多いとも言われている。以下に記す(テレビドラマ含む)作品群は、『I.W.G.P.』以降脈々と続いている妻夫木の俳優としての明確なスタンスのみならず、共演者をも光らせる境地に達した彼の演技の妙を堪能することが可能である。

 

 ・ 『ジョゼと虎と魚たち』 監督:犬童一心、脚本:渡辺あや、出演:妻夫木聡、池脇千鶴、上野樹里、新井浩文 他
公開日:2003年12月13日 上映時間:116分

 

 ・ 『悪人』 原作:吉田修一、監督:李相日、脚本:吉田修一・李相日、出演:妻夫木聡、深津絵里、岡田将生、満島ひかり、樹木希林、柄本明 他
公開日:2010年9月11日 上映時間:139分

 

 

・ 『スマグラー おまえの未来を運べ』  原作:真鍋昌平『スマグラー』、監督;石井克人、脚本:石井克人、山口雅俊、山本健介

出演者:妻夫木聡、永瀬正敏、満島ひかり、松雪泰子、安藤政信 他 公開日:2011年10月22日 上映時間:114分

 

 

 

 『怒り』 原作:吉田修一、監督・脚本:李相日 出演:渡辺謙、妻夫木聡、綾野剛、森山未來、松山ケンイチ、広瀬すず、宮崎あおい 他
公開日:2016年9月17日 上映時間:142分

 

 

 

 

・ 『イノセント・デイズ』(WOWOW) 原作:早見和真『イノセント・デイズ』、脚本:後藤法子、監督:石川慶、
出演:妻夫木聡、竹内結子、新井浩文、芳根京子、清原果耶、石橋蓮司 他 放送期間:2018年3月18日~4月22日、放送時間:日曜22:00~23:00

 

 

 私は今後も、彼・妻夫木聡の出演作を観続けていきたいと思っている。

 

 

 

『池袋ウエストゲートパーク』 2000年4月14日~6月23日 金曜日21:00~21:5(初回放送) TBS
原作:石田衣良 脚本:宮藤官九郎 監督:堤幸彦 プロデューサー:磯山晶
オープニング:Sads「忘却の空」

 
出演:
長瀬智也、窪塚洋介、
渡辺謙、山下智久、佐藤隆太、阿部サダヲ、加藤あい、妻夫木聡、高橋一生、坂口憲二、古田新太、西島千博、須藤公一、矢沢心、小雪、きたろう、森下愛子、小栗旬 他