[Reborn]
1989年のある朝、
使い古した歯ブラシを口に含むと
タバコの吸いすぎも手伝って
軽くえずいた。
新宿丸井店と雑誌ポパイの
コラボ企画をまとめあげると
プレゼンの内容とキャッチコピーを
頭の中で復唱しながら、
洗面所の鏡の前で反復練習をした。
雛鳥のクチバシの様に
歯みがき粉を垂らし
茶髪に染めた頭に
手櫛で軽くディップを付ける。
夜食や朝食も摂らず
徹夜でクタクタになった体に
ウエスタンブーツを履き
私は脱兎の如く自宅を出た。
機関車の様に白い息を吐いて。

イメージです。


を使い
歯や歯ぐきに沿って
異物が無いか確認する。
60歳を超えたあたりから
歯肉が痩せて
食べ物が挟まり易くなった。
洗面台の鏡には
薄くなった頭髪と増えたシラガ、
ほうれい線や無精ひげの自分が
そこにいる。
鏡を盾にして口臭を確かめようと
息を吐く。
曇った鏡の向こうに
若き日の自分の姿と対峙する、
今日この頃。