カトリック社会学者のぼやき

カトリシズムと社会学という二つの思想背景から時の流れにそって愚痴をつぶやいていく

イエスが教会を創ったのか ー 教会論(1)

2019-11-19 12:49:42 | 神学

 11月の学びあいの会は神学のなかでも最も難しいと言われる教会論への挑戦で始まった。教会論はキリスト論と並んで神学のなかで教義学の中枢の位置を占める(1)。教会論に挑戦するS氏は一人当千のカテキスタである。S氏はこの論考は岩島忠彦師の教会論をベースにしていると言われた(2)。

 「教会とはなにか」。現代の日本人にとってそれは、十字架か、建物としての教会か、彫刻や絵か。統一したイメージはないような気がする(3)。教会とはイエス・キリストの名のもとに集う人の集まり、共同体のことだという理解はまだ十分には深まっていないように思う。

 思えば、第二バチカン公会議が開催されていた頃、われわれカト研やカト学が熱心に議論していたのは教会論だった。キリスト教の土着化などと言っていたが、結局は教会論だった。

 「教会論 ecclesiology とは、キリスト教共同体である教会 ecclesia を考察対象とする教義学の一分野である」(4)とされる。つまり、教会論の考察の対象は「キリストの教会」ということになる。

 クリスチャンが信じているのは三位一体の神と教会である。キリスト教の信仰宣言(ニカイア・コンスタンティノポリス信条)によれば、信ずべき教会とは「一・聖・普遍・使徒継承」の4つの属性を持つ教会とされている。逆に言えば、これら4つの属性を持たない、認めない教会はいくら教会と名乗ってもキリスト教の教会とは言えないということになる。

 さらに言えば、キリスト教共同体は歴史的に様々な形で発達してきたので、それら様々なキリスト教教会(東方教会など)を比較的に考察するのは宗教学の課題であって、教会論の課題ではない。つまり、教会論は、狭い意味では、ローマ・カトリック教会を考察の対象としていることになる。しかもそれは制度論的に見れば、教皇制と位階制をもつカトリック教会を考察対象とする学問ということになる。教会論が教義学の中枢に位置するというのはこういう意味なのだとここでは理解しておこう。以下、S氏の報告を簡単に要約していって見たい。

Ⅰ 教会論の現状

1 教会論の特徴

 教会論は教義学の一つだがその成立時期は、キリスト論、三位一体論、恩恵論、救済論、終末論などに較べて遅い。教会が何時生まれ、どのように発展してきたのかを自覚的の問うまでには時間がかかったわけだ(5)。
 教会はイエスが創ったのか。それともペテロが教会の創始者なのか。パウロの考えていた教会(エクレーシア)とペテロたちの考えていた教会(カハル)は同じものだったのか。こういう問いはキリスト教の発展のなかで徐々に生まれてきたもののようだ。

2 教会論の歴史


①伝統的教会論:制度としての教会論。教皇制と位階制の分析が中心
②トマス:教会論をもっていない
③最初の教会論:トルケマダのヨハネ(1430-90)『教会大全』。これ以前の中世の教会論は王と教皇の関係が中心だったが、はじめて教会そのものがとりあげられる
④対抗宗教改革の時代:宗教改革に対抗して、16世紀には位階制が強調される
⑤啓蒙主義の時代:17世紀・18世紀には近代の合理主義に対抗しようとした
⑥ネオスコラ学:19世紀後半にはローマ教皇の唯一絶対性を証明しようと努めた
⑦第一バチカン公会議(1869-70):教皇論のみで、教会論は公文書としてはまとまらず
⑧第二バチカン公会議(1962-65):「教会憲章」公布。教会の本質に関わる初めての公文書(6)

3 教会論の現状

 増田師の言うように教会論は「教会の自己理解の展開の歴史」と考えられるので、歴史的存在としての教会が強調される。教会論は教会の神学的・教義的特徴の説明にとどまらず、むしろ歴史的説明を重視するようだ。様々な教会論が提起されてきたが、なかでも、20世紀後半に活躍したアメリカの神学者ダレスの「教会の5モデル」論が現代の中心的な説明図式のようだ。

①制度としての教会  The Church as Institution
②神秘的交わり(秘義)としての教会 The Church as Mystical Communion
③秘跡としての教会 The Church as Sacrament
④御言葉を告げるものとしての教会 The Church as Herald
⑤奉仕者としての教会 The Church as Servant
後年追加されたモデル
⑥弟子たちの共同体としての教会 The Church as Community of Disciples

 おのおののモデルにはそれぞれの的史的な背景がある。例えば、カトリック教会はモデルの①②③⑤を好むし、プロテスタントは②④⑤を好む傾向があるという(7)。このダレスの6モデルは現在でも広く受け入れられているという。

 20世紀前半の神学者たちによる教会論も多様であった。従来の制度論的教会論は批判され、第二バチカン公会議のなかに新しい教会論が流れ込んでいく。

①Y・コンガール :救いの共同体論
②O・ゼメロート :救いの秘跡としての共同体論
③H・キュンク :「原点に戻る教会」論
④K・ラーナー :「無名のキリスト教」論
⑤E・スキレベークス :新スコラ主義からの決別

 やがて、第二バチカン公会議が契機となり、新しい教会論が登場してくる。

①J・B・メッツ :政治神学
②G・グティエレス :解放の神学
③プロテスタント :御言葉を宣教する共同体(K・バルト、R・ブルトマン)
④ピオ12世 :キリストの神秘体論
⑤教会憲章 :「神の民」論

4 現代の教会論の特徴

①過去の教会論との対決姿勢:制度論的教会論の批判
②教会と世界との関係を重視する教会論が展開されている
③教会論が多様化している
④歴史の1点に凝縮した教会論が登場した:キュンクは「過去」に、バルト・ブルトマンは「現在」に、モルトマンは「未来」に、ゼメロートは「非歴史性」に、焦点を合わせた

 このようにみると、教会論はその研究対象も、研究方法も、まだまだ発展の途上にあるように思われる。長くなったので続きは次稿に回したい。



1 教会論は「教会憲章」によればマリア論やエキュメニズム論をも含むようだが、キリスト論と別立てて論ずるのはあまり意味が無いのかもしれない。岩島忠彦師はカトリック神学院で教義学を教えておられるようだが、専門は教会論とキリスト論だという。教義学には基礎神学や人間論も含まれるようだがその重要度は比較にならないようだ。
2 恐らくは『キリストの教会を問う』(1987) のことであろう。なお、この要約では、岩島師のお弟子さんの故増田裕志師の『カトリック教会論への招き』(2015)にも依拠しながら、両者の視点の違いにも目配りしてみたい。カトリック神学院(東京神学校)では濱田壮久師が跡をついでおられるようだ。教会論のさらなる発展を期待したい。
3 教会という用語は、キリスト教以外にも、仏教でも新興宗教(新宗教・新新宗教)でも使われることがあるのでイメージの統一はむずかしい。といっても、現代の日本では教会と言えばキリスト教の教会を連想することのほうが多いのではないだろうか。逆説的だが、内村鑑三の無教会主義は教会とはキリスト教のことだという理解を日本社会に定着させたのではないだろうか。
4 増田祐志「教会論ーキリストの教会とはー」増田祐志編『カトリック神学への招き』(2009)第10章 176頁。ここで増田師は教会を「共同体」と呼んでいる。宗教共同体の意味であろう。師自身が認めているように(『カトリック教会論への招き』3頁)、これは社会学で用いられる共同体概念とは必ずしも同じではない。とはいえ、これはヴェーバーやテンニースなどの社会学の問題であって、カトリック神学のなかで論ずる問題ではないのであろう。また実体としてみても、成人洗礼の比率が幼児洗礼より高い日本のカトリック教会にassociationの特性を見ることはできそうだが、神学の課題ではなさそうだ。
5 増田師は、教会論の研究対象は教会共同体だが、研究方法は①歴史分析②シンボル論のふたつだという。具体的には「社会学的・歴史的アプローチと神学的アプローチ」だという。詳細はいずれ触れるにして、教会論は歴史分析が中心のようだ。
6 こうしてみてみると『教会憲章』がいかに重要な位置を占めるかがよくわかる。この教会憲章は教会を「神の民」とし、従来の伝統的教会論のテーマ(位階制)だけではなく、信徒、修道者にふれ、終末論を展開している。また、マリア論、エキュメニズム論をも含んでいる。批判的に言う人はこれは従来の議論のごった煮だと評するらしい。教会憲章は教義憲章とも呼ばれ、教会の教義的性格を論じている。他方、教会の司牧的性格は『現代世界憲章』のなかで論じられている。これは司牧憲章と呼ばれているようだ。教会論は「教会の自己理解の展開の歴史」(増田 24頁)なのだという。
7 増田師によれば、このモデルは説明力が高く、特に追加された⑥モデル(弟子たちの共同体)というモデルは現代社会では広く受け入れられているという。A.Dulles, Models of the Church, 1987  邦訳はまだなさそうだ。

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