原告適格の考え方 | 司法試験のあるきかた

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Q:行政法の原告適格の言い回しが理解できない


A:あの規範は、行訴法91項の「法律上の利益を有する者」という文言の解釈問題です。あの規範を解説する前に、原告適格というものが何なのかを理解する必要があります。


そもそも、原告適格というのは、行政庁の処分性ある処分(すなわち国または公共団体が、法律の規定に従って、処分を受ける国民の意思に関係なく一方的に権利義務や法律関係の変動の効果を生じさせる行為)に対して、取り消されるべきだ!とか無効だ!などのように口出しする立場のことを指します。取消訴訟を提起する立場かどうかを問うのが取消訴訟の原告適格というわけです。


そして、処分の名宛人、または処分の法効果を直接に受ける(=その者との関係でも処分性を肯定できる)については、処分が取り消されれば、自己の「法律上の利益」(行訴法91項)を確保できるわけですから、処分の有無と自己の権利義務がダイレクトに連動しているわけです。



すなわち、ある当事者に対して処分性を肯定できる場合、当該当事者について原告適格を認めるための論述は、概ね以下のようになります。


××は処分の名宛人であって、処分が取り消されれば◯◯という法律上の義務を負わなくなるのであるから、処分が取り消されることにつき「法律上の利益を有する」(行訴法91項)といえる。したがって、××は原告適格が認められる。」




これに対して処分の法効果が直接及ばない第三者については、このように考えることができません。

シンプルに考えてみると分かると思いますが、処分の法的効果を直接受けていないのに、その処分の取消について口出しができるって凄い状況じゃないですか。


そのような口出しの権利を判定するのが、判例のながーい規範になります。


では見ていきましょう。



「①行訴法91項の『法律上の利益を有する者』とは、処分によって自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいい、②当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるに留めず、③それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべき趣旨を含むと解される場合には、そのような利益も法律上保護された利益に当たり、これが侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は原告適格を有する。」


長いので、番号を振ってみました。

まずは、②の直前、「又は必然的に侵害されるおそれのある者をいい、」という部分までをみてみましょう。


①の部分は、行訴法91項の「法律上の利益を有する者」の文言解釈です。

これに対し②以降は、「法律上の利益を有する者」の定義の中に出てくる、「法律上保護された利益」の解釈なのです。③の後半で、「そのような利益も法律上保護された利益に当たり」とされているのは、そういうことなのです。


すなわち、

法律上の利益を有する者」(行訴法91項)

(解釈)

処分によって自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者

(「法律上保護された利益」について解釈)

当該処分を定めた〜


という構造になっているわけです。判例の規範は長いですが、出発点は条文です。


本番は、ある利益が「法律上保護された利益」かを判断する、その判断方法(②以下)です。判断の仕方は、全て定義の中に詰まっています。順に追っていきましょう。



まず、「②当該処分を定めた行政法規が」とあるので、処分の根拠法規、すなわち処分の要件を定める条文を確認します。


よくある間違いとして、いきなり個別法1条の目的規定を引く人がいますが、それはこの定義からしても完全に誤りです。

処分の根拠となる条文を解釈するに当たり、目的規定や周辺の法律、場合によっては処分基準などを参照することになるのです。ここでやるべきことは、処分の根拠法規の解釈であり、目的規定などはその手段に過ぎないのです。


このことは、行訴法92項に規定があります。条文を見てみると、


「裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることになる利益の内容および性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。」


これも長いですね。

この条文は最初の方で、第三者の原告適格の場合の話であることをまず明示しています。


で、処分の根拠となる法令の文言のみによることなく(のみによることなく、ということは、文言を考慮することは前提となっています)、その法令の趣旨・目的、処分において考慮されるべき利益の内容・性質を考慮しろと言っています。


得てして処分の根拠法規の文言だけでは明確な解釈にたどり着けずなかなか頼りにならないので、法1条の規定を見て、法令の趣旨・目的を確認します。


このとき、関係法令がある場合には、それらの趣旨・目的をも参酌しろといっているのが行訴法92項「この場合において」以下です。



そして、処分を行うに際しどのような内容・性質の利益が考慮されることになるのかを指摘するわけです。この時には、法令違反があった場合に害される利益の内容・性質、害される態様・程度を考慮する、ということが92項の最後の方で定められています。



このように処分の根拠法規を見て、その趣旨目的(+関係法令の趣旨目的)と、考慮する利益の内容・性質(+害される利益の内容・性質、害される態様・程度)を検討するのは何故かといえば、原告が侵害されていると主張する利益が、当該根拠法規によって公益としてのみならず、個別的にも保護されているかを検討するためです。



論述する際は、まずは原告の主張する利益を確定し、それを指摘します。


次に、処分の根拠法規を指摘し、その文言を、法1条や関係法令の目的を見ながら解釈します。

そして、原告の主張する利益が、②少なくとも公益として保護されることを指摘します。


公益として保護される、というと漠然としていてイメージが湧きにくいので、食品衛生法を見てみましょう。


食品衛生法1条には、「この法律は、食品の安全性の確保のために公衆衛生の見地から必要な規制その他の措置を講ずることにより、飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し、もつて国民の健康の保護を図ることを目的とする。」と定められています。


公衆衛生の確保や、国民の健康といった利益を、食品衛生法上の種々の規制や処分によって、実現しようとしているわけです。

そうすると、例えば私の健康という利益は、少なくとも食品衛生法は、公益としてこれを保護しようとしているものといえるわけです。



公益として保護されることが確認できたら、次です。


原告適格の規範は「③それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべき趣旨を含むと解される場合には、そのような利益も法律上保護された利益に当たり」としていますから、原告の主張する利益が漠然とした公益に含まれるのみならず、処分の根拠法規が、特に個別的にも保護する趣旨であるかどうかを検討する必要があります。


処分の際に考慮される利益の内容・性質、違法な処分がされるときに害される利益の内容・性質、害される態様・程度を考慮していくことになりますが、この辺りの考え方は、判例を読みましょう。


違法な処分によって害される利益が生命や身体の安全といった重大な利益であり、違法な処分によってこれらを大きく害する可能性があるような場合には、そのような利益が害される原告のうち、一定の範囲の者の利益は法が個別的に保護している、という理屈を採用することが多いと思います。


このように長い旅を経て、原告の主張する利益が公益に含まれるのみならず、個々人の個別的な利益としても法が特に保護する趣旨であるというゴールに辿り着いて初めて、そのような原告の利益は「法律上保護された利益」に当たり、これが侵害され、必然的に侵害されるおそれのある者は行訴法91項の「法律上の利益を有する者」に当たるわけです。



なお、上記の説明では②の「公益に含まれるか」の段階において法の趣旨・目的を検討し、③「個別的にも保護された利益か」の段階において被侵害利益を考慮しましたが、必ずしも公益の段階では法の趣旨目的だけを考慮し、個別的利益の段階では被侵害利益だけを考慮する必然性はありません。

その辺は、ロースクールで勉強するなり、基本書を読むなりしてほしいと思います。


ただし、基本行政法325頁などを見ると、被侵害利益の内容・性質、害される態様・程度は少なくとも個別的利益として保護されるかどうかを切り分ける役割を果たすことが指摘されていますし、答案としても、


「こんなに重要な利益がこんな大きく害されてしまう、しかも事後的な回復は困難、そうだとすれば××の利益を有する者のうち、特にそれが害される可能性が高い△△の範囲の者の利益については、法が個別的に保護しているものといえる。」


と書くと、とっても書きやすいところです。


また、公益に含まれるかどうかの部分で、法の趣旨・目的のみならず処分の際に考慮する利益についても触れてしまうと、同じことを何度も書くことになってしまうので、個人的には、公益に含まれるかを判定する部分では、法の趣旨・目的からサラッと公益に含まれることを述べるのが書きやすいと思います。



このブログで法律論に触れるつもりはなかったのですが、askで詳し目に解説してしまった原告適格については、後から見返しやすいよう、askの記載を大幅にリメイクして(苦笑)、ブログの記事にすることにしました。


あとは訴因変更の要否と可否についても、リメイクすると思います。