昨年9月から1年間のセバティカル(無給休暇)をカナダの職場からとり、日本は東京で「マンション」も見つけ(過去ログ参照)、さ~いよいよ東京での新生活を始めるぞ!と意気込んだ私がまず始めたこと、それは何でしょう?ヒントは学校。


はい、皆さん正解です!「自動車教習所に通う」でした~・・・ってタイトル見たから分かってたよ?いやいや、それよりシンペーってカナダで免許持ってなかったの???って驚きました?



はい、私、ソーシャルワーカーの免許とスキューバダイビングの免許は持っているんですけどね・・・運転免許は色々と事情がありまして持ってないんですよ・・・な~んて書くと、悪い噂が広まってしまいそうなので(どこに?)、まずは、なぜ私がカナダで運転免許を持たなかったのかをご説明いたしましょう。



厳密に言うと、カナダで運転免許は持ったことあります!ただし仮免だけど(笑)。私が住むBC州では運転免許には三段階あります。仮免、初心者免許、普通免許。仮免はLearner’s License (通称Lライセンス)と呼ばれていて、この仮免をとるにはズバリ筆記をパスすること。これだけでいいんです。そして普通免許を持っている同乗者がいれば、そのまま路上を運転することが出来るんです。そもそもカナダには自動車教習なんてシステムはないので、基本は全て自主練習。Lライセンスを取って、同乗者のアドバイスをもらいながらひたすら路上で練習するんです。しかしLライセンスは取ったものの、私の友達の中で車を持っている人なんていなかったため(あ、あと持ってても私にな・ぜ・か運転させてくれなかったため・・・チッ)、私は日本で言えば教習所みたいなドライビングスクールにお金を払って運転を習う事にしたのでした。



レッスン初日、人の良さそうなインストラクターのお爺さんがやってきました。私のアパートの前に車を止めると「さーそれでは練習を始めましょうかね~。ほら乗って!」と明るく急かします。私は急いで助手席のドアを開けようとすると「あんたが助手席のってどうするよ!運転練習するのは君でしょ君!」と言うので、恐る恐る運転席に座ります。私この時人生で初めて運転席に座ったんですよ、だから文字通り右も左も分からない状態です。にも関わらず、この爺は「はい、じゃーシートベルトして発進して」と言います。


え?いきなりここからスタートするの?


私の住むアパートはダウンタウンのど真ん中。アパートを出てすぐに交通量の多い大通りに出ます。

いや、ちょっと、初めてハンドル握った私が、いきなりこの大通りから運転練習スタートするのはいかがなものでしょうか・・・だいたいどっちがアクセルだっけ?

と躊躇すると言うより怖い気持ちでいっぱいの私。マジで。

そう、それはつまり運転経験値0のドライバーが初運転を首都高でするぐらい無謀で危険な事。

もたもたと言うか、ガックンガックンと変則的な運転をガチガチな表情でする私の顔をインストラクターの爺はまじまじ見ると「ね~あんた今まで運転した事ないの?」とやっと一番重要な事を聞いてくれました。でもすでに時遅し、私の車はもう交差点に突入していたのでした。そして信号は青・・・どうしましょう?と爺を見つめる私。「あ~君、ここで止まっちゃダメだよ~。とにかく前進して前進!」っと爺に言われて私はもう無我夢中で北から南へとダウンタウンをひたすら一直線に走ったのでした。そんな初運転・・・今思い出してもゾクッとします。そして、そんな車が今日も平気でバンクーバーの街中をウジャウジャ走っているかと思うと、もっとゾクっとします。もうバンクーバーの交差点は歩けないよ・・・

と、ま~こんな感じでLライセンス保有者は経験を積んでいくのです(怖いでしょ?)。



そしてLライセンス(仮免)を持ってから1年後に路上テストを受けて合格するとNew Driver’s License、通称Nライセンスと呼ばれる初心者免許を手に入れる事が出来ます。Nライセンス保持者は、同乗者数の制限はありますが、自分1人で運転する事が可能になります。そしてNライセンスを取ってから2年後に再び路上試験を受け合格すると、今度は晴れて普通免許を保有する事が出来るのです。つまり、仮免から普通免許取得まで最低でも3年かかると言う事なんです。これは長丁場。このシステムって16歳とかの若者向けに作られてるんじゃないかと思いますよ。だって30や40から免許取ろうと思って、その3年ってすっごく長いですよね。ま~とにかくそんな訳で、私も当初は仮免からの普通免許取得を目指してコツコツ路上や高速道路での運転練習をインストラクターの爺とやっていたのでした。そして1年後の路上テストの当日・・・爺からは「あんたもう大丈夫だよ。絶対合格する!」とお墨付きを頂き、いざ出陣!あ、でも車がなかった。カナダで路上試験を受けるための車は自分で用意しなければいけないんです。じゃー車ない人はどうするんだ~?と基本的問題に突き当たるのですが、私もその1人・・・でも神様はいるんです。なんと心優しいアパート上階の元ソーシャルワーカーだったおばあちゃんが「あら、それは大変。それならシンペー、私の車を使いなさい。古いオンボロ車だけど」と言って車を貸してくれたのです。さすが元ソーシャルワーカー、素晴らしい!

そうして私は普通免許を持っている友達を助手席に乗せて、心優しいおばあちゃんの車で試験場へと向かったのでした。



自宅から試験場までは車で30分ほど。試験場まであと5分くらいの距離まで来た時、私は「あれ?」と思いました。前の車の後を走っているのに、速度計は0kmを指してます。あらら?走っていると思ったのは錯覚か?と目をこすってみたのですが、いやいやこの車走っているし、それも結構なスピードで。でも速度計はピクリとも動きません。タラ~りと冷や汗が流れます。「ちょっと!ちょっと~!これ、これみて~!ルックアトディス!」と助手席に座る友達に叫ぶ私。友達は「・・・ん~と、とりあえず試験場まで行ってから考えよっか」と問題の先送り作戦。いや、いや、でもこれ危ないでしょ。しかもここで警察に速度超過で捕まったら一巻の終わり・・・路上テストどころか免停だよ。おまけに、こんな時に限って前の車が左折して私が先頭車両になってしまいました。速度が分からない状態で運転するのってちょー怖い。ルームミラーをチラチラ見ながら後ろの車の速度に合わせて走ろうとする危険な車・・・「ばあちゃん!!!本当にこの車はおんボロのアメ車だよ!!!」と親切なおばあさんに心の中で悪態をつきながら、それでもなんとか試験場に到着したのでした。でも、もうこの時点で精神的にヘトヘト(涙)



あ~やっと着いた・・・さあ~気分を切り替えて路上試験がんばるぞ~!と意気込む私の担当試験官はお姉さんとおばちゃんを足して2で割ったような、多分私と同じくらいの年齢の女性でした。それも思いっきり怖そうな。

「あのシンペーと言います。本日はよろしくお願いします」と礼儀正しく挨拶し、そして握手をしようと手を差し出した私・・・を完全無視して「その女」は「ふん!早く車のりな!」と曰うのです。カチ~ん!と早くも頭の血管が一本ブチ切れた感じがした私なのですが、ここは落ち着かなくては。もしかしたらカナダの試験官ってこう言う風にわざとするのかも。公平にジャッジするために・・・と自分をなんとかなだめ車に乗り込みます。

「ふう~」と深呼吸を一息ついて、さ~試験がんばるぞ!

・・・と気分を切り替えた私に「ちょっとこの車?ボロすぎない?」と聞こえるように呟く女。

はあ!?せっかく親切なおばあちゃんが貸してくれた車にケチつけんなよ!とさらにブチブチッと血管が切れたのですが、私はソーシャルワーカー、落ち着かなくては。

「そうですかね~。私はレトロな感じのこの車好きですけどね~。それもすごく優しい(あんたと違って!)近所のおばあさんが貸してくださったんですよ」と穏やかに返します。さっきは自分でもボロ車って言ってたけど、それはあえて忘れましょう。

それに対し「あっそ。じゃー発進して!」と私の言葉を最後まで聞かずに女は命令します。

うわ~!なんて失礼な人なんだ。くくく、負けるものか。そう思った私は力一杯エンジンをかけました(っていうか力任せに鍵を差し込んで回した)。その時「あ、そう言えば速度計に問題があったんだっけ」と思い出し、やべ!と焦る私。だって速度計がぶっ壊れていたらいきなり試験は中止です。そんな事になったらこの車がオンボロだと言った女の言葉を認めた事になってしまいます。それは絶対嫌だ!でもそんな私の願いが通じたのか、それとも力一杯エンジンをかけたのが功を奏したのか、速度計の針はブルッと一周すると、ちゃんと正常値に戻っていたのでした。あ~助かった・・・



それでは、いざ出陣!私は車をゆっくり発進させると、試験場の駐車場を出るべく出口に向かいます。

まずは左右確認。右左右左そしてもう一回念のため右左確認。右から車がやって来ますがまだまだ距離はあります。

「それではシンペー左折行きます!」とゆっくり左折した私。

「はい!ダメ~!失格です!」と女の声が響く車内。

え!?

「今、右から車が来るの見えなかったの?」

「見えましたけど、十分距離があるから左折しました・・・」

「なに言ってるの?もう少しでぶつかるとこだったわよ。あなたこのままだと絶対事故起こします」と女は言うと、さらにダメ押しの

「You are a dangerous driver!」を付け加えて見事試験終了。

・・・でも実際車とぶつからなかったじゃん。ぜんぜん納得いかね~・・・よ!!!



試験場出て3秒で失格になった受験生は果たして何人カナダにいるんだろう?って思ってしまうほど秒殺で終わった路上試験。しかし、試験失格は決定しても、試験コースは周りきらなければいけないのがルールらしく、そのままドライブは続き、縦列駐車をやったり、高速道路も走らなければなりませんでした。そうして私がその路上試験で学んだ最大のレッスン、それは・・・

「怒っている状態で、なおかつ助手席に大嫌いな人が座っている車での運転は大変危ない」と言うこと。ただでさえ試験失格が決まりヤケクソな気分なのに、いちいちケチをつけてくる(指導をしてくれてる?)試験官に怒りはどんどん高まっていき、それに反応するように車も急発車急停止を繰り返す状態。もうほんと、すぐにギブアップさせてくれた方がお互いに安全なんじゃない?って感じで終わった初路上テストINカナダ。



この経験がトラウマになり、そしてその後すぐにベトナムでの開発援助の仕事に出向く事になった私は、これ以来、自動車免許取得をあきらめてしまったのでした。



皆さんの中には、カナダで運転しなくても生きていけるの?と思われた方もいるかもしれないのですが、バンクーバーやトロントのような公共交通機関が整備された大都市なら大丈夫。車がなくてもバスや電車でどこにでも大体行けます。いやむしろ車がない方が、経済的にも環境的にも良いんじゃね?って思って(言い訳して?)私は生きて来ました。ただし、もしソーシャルワークの仕事で在宅介護のケースワーカーや児童保護ワーカーの仕事をやりたければ、自動車免許は必須要項です。クライアント・患者さん家に出向かなければいけないしね(街中なら自転車でもできるかもだけど・・・募集要項には自動車免許必須になってる)。さらに、郊外に行くと公共交通は一気に貧弱になるので、やはり車は必要となります。ま~そう言う理由もあって私は今までダウンタウン居住&駅前病院ソーシャルワーク業を営んで来たわけであります。


その私が何を突然、それも日本で免許を取ろうと思ったかって?それは次回で(予想以上に過去回想で長くなってしまったから 笑)。


つづく