日頃は姿を隠している
陽がのぼる頃 あるいは
陽の裏側で地球を包む頃
そいつは現れる
帝国ホテルの角を曲がる
その角度は
目的によって違うのだが
生をまとめる相談のために
そいつに会いに行くと
歴史を青いスカーフにして
首にまき
そいつは馬車を引いてくる
首筋には
いくつかの反乱と処刑の跡
耳には
死者の冠と名前が
真珠のように下がっている
多くは
朝陽か夕陽に真っ赤に染められて
河に浮かぶ筏と死体
玉蜀黍の下の鉄の句読点と死体
昔 この都を走り
そのまま地雷のうえを走らされた
堀を渡ったレストランで
たくさんのステーキを焼いた
時に
都市と島と
言葉を焼き尽くしながら
鎖のようにつながっている人類の歴史
きみもあなたも
その列のなかにいる
ベトナムのレンコンの地下茎のように
焼却炉に投げ込まれるハンバーガーの
取り忘れた正札のように
イタリア靴二十万
サイゼリアのアラビアータ三百八十円
ソマリアのトウモロコシ六十円
ニジェールの女性二千円
少年兵無料
わたしたちにも正札が下げられている
帝国ホテルのランチ無料招待券をポケットに
お腹をみたしにいく
罪は
わたしたちの首に
真珠となって そうでない場合は
荒いロープとなって
満たされることはない
名刺が白紙になることはない
黒い紙がポケットに既に準備されている
きみが
きみだけで立って生きることはあるだろうか
黒い紙にあぶりだされる地図に従って
幽霊のあとをついていく
きみは帰り道を歩く
きみではない
きみのものでない時間と空間
きみでない存在になって
死後
きみの死体からすべてが逃げ去る
神保町交差点に立つきみ
イラクでミサイルで死んだかれ
メキシコで売られ殺された彼女
同じ形で
同じ色になって
きみは歩く
地下鉄から工事計画だけで停止した階段をのぼると
空はブルー
それだけでいい
白山駅の階段をのぼりながら
呟く 空があればいい
わたしを吸いとる
空があればいい
わたしの肉体は影をつくらない
影のないきみがキスをする