苺を潰す | 友野雅志の『TomoPoetry』

友野雅志の『TomoPoetry』

日々書きためている詩をのせます。noteには下にのせています。https://note.com/mtomono


梅雨のなか回転する
深紅の傘
ブルーの銀河系
化石のように罅が入った心臓
眩暈した希望
次から次へと忘れていく歴史
いつしか始皇帝の墓に埋められる
紅海を歩いて渡る
風にめくれる日記や
純白のウエディングドレス
深夜のフイルムの空回り

予想した
世界の河川の音を巻きとったパリ
夢を燻製にしたアフリカの風
歴史を湿らし続ける南アメリカの山脈
欲望が身を投げる大西洋
言葉が砕かれ敷き詰められたシルクロード
それらを回転させながら
わたしたちは歩く

紫陽花に太平洋の深海
血とかなしみを
魚類の乾いた骨のように砕いて
空には
太陽のような苺が
振り子になって揺れる

苺はいつも
人生最後のように赤い
飢えを感じながら
白い陶器に乗った苺を
時間の丸い裏で
潰す

誰の命なのか
誰のための苺なのか
苺は
丸く
世界を映している歴史の丸い裏で潰される

真っ赤に塗った天安門
赤い壁を埋めたシベリア
トマトを瓶詰めした黄金海岸
鉈でスイカを割るアフリカ
電気が流れるネオン
鞭で収穫する苺

苺を手にのせる
手の血の歴史によって匂いはいろいろ
梅雨のなか
苺を握りしめる

帰りつく時には苺は潰れている
だから苺は
人類の失敗の味
わたし自身の過去の苦み
なんとか残っている他者の苺のように
まだ見ぬ未来の甘さ
潰れた苺を
飲みこむ