なぐさめの水 | 友野雅志の『TomoPoetry』

友野雅志の『TomoPoetry』

日々書きためている詩をのせます。noteには下にのせています。https://note.com/mtomono


盆栽は形を求める
あるいは形を強制される
喜びは小さな鉢につめられている
日々水が注がれ
時にはキスしてくれる
ナイフの唇で
指を切りおとすほどに

きみの肉体はラップに包まれている
生の甘苦しさも死のかた苦しさも表さない
きみは夜
きみのなかに成長する盆栽に気づく
盆栽はきみの肉体の枠から出ることはできない
だれにも聞こえない声で笑う  
あるいは   きみの腸が振動するようにふるえて泣く
盆栽は語らない
盆栽は四肢を切り落とされ
献上される
盆栽はいつも
きみの額のなかにある

盆栽の枯れていく過去
盆栽の見ることができない未来
盆栽のセックスと排泄
きみのなかで
薪になる

火をつけてみるといい
盆栽の詩が聞こえるだろう
盆栽の生活が語られるだろう
落とした腕と脚が
チリチリと鳴くだろう
その夜  きみは魂となりきみを知る

きみが失った腕
きみが割いた下腹
きみの金切り声
きみの額のなかで鳴りひびく

真っ暗な闇ときらびやかな朝
そこにはもう花がない
鳥が鳴く窓がない
きみは鉢に種をまく
きみのためでなく
芽を出すだろういのちのために

見るのはきみの目ではない
きみが知らない目が見る
きみが知らない雨が降る
きみが知らない風が吹く
きみの香りがない星に
一本の細い枝が伸びる

水が注がれる
この水は
わたしたちのいのちをしぼった
盆栽は
まだ形をもたない
風とともに会釈をする

わたしは見えないきみに会釈して
一日をはじめる
一日でいいのだ