ことこと鼓動する天空 | 友野雅志の『TomoPoetry』

友野雅志の『TomoPoetry』

日々書きためている詩をのせます。noteには下にのせています。https://note.com/mtomono




マゼランが踏み外した太平洋
海面がとぎれるところ
ため息の青
マルコポーロが跨げなかった裏路地
映像が吸いこまれる
闇の湿り
肉体が鼓動する
あたらしい生命が
あたらしい視界を
びっしょりに
這っていくように

海の深みにキスしながら
歴史の奥に
鼻をつけ
道をたどる
ことことコトコト
骨がなる
骨は砕けた光で
満ちている
深夜に散乱するこまかい銀
早朝の爬虫類のつめたさ
午後
海や都市の闇を
刃物でうすくけずる
粉になり海底へ降り落ちるのは誰?
骨がなる
星雲とほうき星の隙間に
舌を伸ばす
歴史の乾いた味がする
赤い砂漠の
月あかりと過去の言葉を
舐めながら
見あげると
月が砕け降ってくる
さらさらサラサラ
地に沁みいった血
空の川にながれた
ことばのかけら
のかわき

駆け抜けた刀が裂いたもの
裂かれてひゅうひゅうなるもの
フラスコの静かさを
ゆらゆらと
天空の皿に
パイはオレンジ色
白い手がフォークを刺す
あの大陸の丸い背
この沼地の硬い背
数世紀すると
ことばは音になる
叫声と苦笑と
呻き

きみの奥底へのかえりみち
今日という時間から
滴りおち地にしみ
空にしみ
乾いたきみの骨のかけらにしみ
色変えていく歴史を
湿らせるため息
あおいフラスコのなか
きみは聞く
きみの鼓動を
鼓動する天空を

帰りは
裸で地下道をくぐる
コツコツ
骨コツコツ
見えない肉体で
地球を蹴る
赤いヒールの先で
コツコツと

星が浮いた河原で
すきとおった骨をあらう
天の胸がおおきく呼吸している
耳をすますと
鼓動がきこえる
銀河系が楕円をたどり
透きとおった下着をとり
ほそい列島を
見えない指で
なぞっていくように

宇宙で骨がなる
地がまわるのに遅れながら
月夜の散歩のように
死にゆく鼓動のように
かわいた音で
弱くよわく

わたしは鼓動する天空の
胸をやわらかく手の平でつつむ
わたしのなかで
ことこと
響いている

わたしは音になる
まだ生きている音になり
天空に手を
どこまでものばす