おじいちゃんの部屋は
特別離れた場所にあり
いつでも西日の中にあった
僕が右に銀を繰り出すと
おじいちゃんは金を寄せた
ならばと左に銀を繰り出すと
おじいちゃんは金を寄せた
同じ手順が十回以上続いた
おじいちゃんは
僕に似て意地っ張りだ
攻略を図れば防御を固め
どこにも隙を作らず
突破口を与えてくれない
銀を繰り出せば金を寄せ
目先を変えてもついてくる
譲れない中盤に
僕は数え切れない銀を繰り出した
苦い顔をしたおじいちゃん
「まいった」
突然
小さな声で
負けを認めた
(まだ駒もぶつかっていないのに)
だから局面はずっと止まったままだ
おじいちゃん
お腹空いたんか
あれは千日手だったのに