「行ってくるよ」
やり遂げるまで帰らない。弱くても崇高な目的を持っていた。
駆け出しの頃がよかった。
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レベルアップするにつれて忘れてしまう。
朝焼けの色。好きだった食べ物。人の名前。
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一番の敵は孤独のはずだったが、愉快な仲間たちに恵まれた。
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魔王は悪の限りを尽くしていたが、各地に多様な遊戯施設を張り巡らせて、娯楽性の高い世界を築くことによって己の悪事をぼかすことに長けていた。それはどんな強い魔物よりも、勇者の冒険を足止めするのに役立った。「もう少しゆっくりしよう」もう少し、あと少し。楽しければそれでいい。安定的な楽しさを手放してまで先を急ぐほどの理由があるだろうか。勇者は日々に広がる楽しさに浮かれ、旅立ちの朝にあった第一声を忘れてしまった。ぼかしの魔王恐るべし。
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「どうだ。強くなったか?」
電話の向こうに父の声。
なってないとは答えられない。
「うん、まあ」
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こん棒は遙か過去、ついに伝説の剣を手に入れる。
しかしその矛先にある目標を勇者は既に見失っていた。
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旅立った勇者。成長を続ける勇者。
それなりの満足の中で戻れない勇者。
勇者の中に埋もれる勇者。
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「誰かみつけて」
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「迷子にならないことは難しい」
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僕は勇者